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D-悪夢村

きっかけは「山津波」。
雨による土砂崩れの、規模が大きいものとイメージしたら良いのでしょう。
ブライを含む、ホテルの宿泊客たち数名が、
ブライの指示を元に、難を逃れて、丘の上までやってくる。
ここからが悪夢の始まり。
これで今回の関係者たちが、一所に集められたのです。

何かやましいことがあるらしい、お尋ね者のブライ。
人間側でメインになる存在です。
他の面々は以下の通り。

ライル・ブレナン(以下ブレナン)とジョゼットの戦闘士夫妻。
医者兼女衒であるアーバックルと、その「商品」となる娘、ベス。
妖艶さで明らかにその手の職業とわかるシャーロット。
ヤンとエミリーの夫婦。

アーバックル曰く、この辺りは、
神祖が直々に命じて作らせた極秘の実験場だったらしい。
その時、丘が揺れ、大地が回転したと思ったら、
目の前には小さな村が広がっていた。
人っ子ひとりいない、まるで廃村の有り様だが、
古びた感じがなく、今にも息を吹き返しそう。
西の果ての丘の頂には、城塞もあった。

こんないかにもなところ行きたくなかったのだが、
雨と疲れのせいで、エミリーは熱を出し、ベスは肺炎になっていた。
ブライと戦闘士夫妻は、別行動をとろうとしたが、そうはうまく行かなかった。
ジョゼットが倒木に打たれて気を失っていた。
ブライもまた、突然泥濘に沈んで、助け出された場所は村の中だった。

こうして、タイトル通りの「悪夢の村」に皆が到着する。
皆が集まっていたのは、集会場と思しい大きな建物。
アーバックルは二人の娘の治療にあたり、戦闘士夫妻は必要なものを探しに行った。
この村の成り立ちを考え、自分たちは実験動物として招かれたのだと実感しつつ、
どうにか村から出る方法を考え始める。

杭が仕上がったところで、ブライは城塞へ向かうことにする。
そしてジョゼットもついていくことに。


ところで、Dシリーズにおいては、単なる中世のファンタジーではなく、
SF的要素が関わってくるのが醍醐味。
情景的世界観だけ見てるとついつい忘れがちなのですが、
Dの世界は遠い未来のお話なのです。
まぁ、不老不死の吸血鬼なんだから、そのぐらい生き長らえても不思議ではない。

Dには独特な吸血鬼史があるのですが、今回はジョゼットが語ってくれました。
貴族は、太陽を消すつもりだった、と。
太陽が苦手という弱点は変わらず、生物学的には克服できていなかったのです。
そんな彼らにとって、必ずどこかの面が太陽に向いているこの星は、
実は宇宙でいちばん棲みにくいところかもしれない。
月の裏側には彼らのための恒久都市も建設された。
人工凍眠装置なんか要らないし、大事故が起きたって、真空服もなしで外へ出て修理もできる。
どんなに強烈な放射能や宇宙線が渦巻いているところだって平気だし、
硫化水素だけの大気も清浄な空気みたいに吸い込める。
何より、乾燥血液さえあれば、食料なんか一切なくても生きていける効率のいい生物。
それが、貴族。

だけど実のところ、外宇宙に出て行かなかったのは二つの説がある。
ひとつは貴族の精神的タブーによるもの。
つまり貴族は実は光を愛している、という説。
その例として、月の裏側に建設された<都>は、百年も経たないうちに、廃棄されてしまった。

そしてもうひとつの説は、アウタ・スペース・ビーイング(=外宇宙生命体)。
略して、OSB。Dシリーズの読者にはおなじみのワードです。
今から5千年前に初めて接触したOSBとの戦いは、2千年にも及んだ。
そのせいで、貴族の中枢部は壊滅的な打撃を受け、二度と立ち直れなかった。
神祖がOSBに興味を持ち始めたのは、この頃からだというが…。

今回、この神祖のOSBに対する探求心が、物語のキーとなるのです。


予備知識をおさらいしたところで、話を本編に戻します。
ブライとジョゼットが礼拝堂にいたところ、城の近くに銀色の飛行体が落ちる。
炎の中、なんとDが登場した!
やっと現れた!それにしても、ド派手な登場です(笑)

ブライとジョゼットが集会場に戻った時、他の全員が姿を消していた。
きっと城へ招かれたのだろう。
奪還しようと動きはじめたところ、貴族とOSBの合成体に囲われる。
戦いも束の間、なんとDが陽光症で倒れてしまった!


「陽光症」とは、これもDシリーズにはおなじみのワードです。
人間と貴族の混血=ダンピールにのみ現れる症状で、前触れもなく意識を失い、
どんな手を施しても覚醒しない。
自然の眼醒めを待つしかないのが恐ろしいところで、
それこそ数秒~数年、数百年にも亘る場合がある。
その特定はどんな医師にも、ダンピール自信にも不可能。
左手曰く、このところDは強い光の中での仕事が続いていたし、
前述の登場シーンでの炎も影響したとか。


というわけで、ここからDは全く動けなくなります。
かわりに大活躍するのが、左手!
なんと単体で城に乗り込んでいきます。
その様子はまるで「小さな大冒険」!
どこか緊張感のない、憎めない存在感は、いつにないコミカルさを演出します。

城で左手を迎えたのは、ヘルダーリン公爵夫人と、グレイランサー卿。
グレイランサーは外伝としてスピンオフされるなど、
身分だけでなく、シリーズ的にも一目おかれるキャラです。
ヘルダーリン公爵夫人は、どうやら神祖の研究を継ごうとしていたのですが、
その最大の試みとは…?


以前にも書いたことがあるかもしれませんが、
Dの世界観は、ファンタジーと西部劇を融合しています。
あのどことない寂寥感は、辺境を舞台にしていたり、西部劇的な要素からくるのかもしれないですね。
よくある中世貴族の世界観だと、森の中に城があって…という、
ミステリアスなファンタジーを想像するわけですが、
そこに銃を乱射したりというのが、普通はあまりそぐわない。
だけど、Dシリーズではそれを平然とやってのけているのです。
SFとの融合についてもそうですよね。
それは、そもそもD自体が、人間と貴族の混血という、異界を繋ぐ存在であるからこそなのかも。
今回、人間、貴族、OSBと3種の生命体が登場しました。
生物学的特徴もカルチャーも全く異なる生命体。
この異種生命体がどうなろうとしているのか、神祖はどうしようと思っていたのか、
そんな科学的観点から見ても面白い作品だと思います。



吸血鬼ハンター D-悪夢村

吸血鬼ハンター D-悪夢村

  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: Kindle版


山津波で宿を追われた旅人たちが辿り着いた丘の上の村は、かつて貴族と外宇宙生命体(OSB)とが死闘を繰り広げた古戦場であり、神祖が作った実験場に隣接していた。
過去を留めたまま眠りについていた村と貴族の城塞は、旅人を迎えて突如目覚め、村にOSBを素材にした合成生命体が徘徊しはじめる。
一行のパニックが頂点に達した時、Dが現われた。
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