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Re:ALICE

表題作と「GOOD-BYE JOURNEY」の2本立て。
この2作品は、西田さんが行っているワークショップの、
卒業公演の為に書き下ろされたもので、
「クラシックス」というシリーズ名がついています。

ワークショップということで、演者は生徒たち。
何かを始める者たちにとっての、エールになればと思って、書かれたそうです。
なので、作品のあちこちに、そんな思いが込められている気がします。

ワークショップの期間は1年間。
出逢いがあれば、必ず別れもやってきます。
その限られた期間を、新たに出逢った人たちを一緒に、何かを作り上げていく。
ひとつひとつ、情熱をもって取り組んでいく。
私もその経験、わかります!
そしてその先に、こんなに素敵な卒業公演が用意されていたら、
もう感無量ですよね!


Re:ALICE
「鏡の国のアリス」をモチーフにした作品。
アリスのあのあべこべさは、子供の時にこそ通用する面白さだと思う。
大人になると伝わらなくなってしまうのは寂しいですよね。
その点、表現者はずっとそういう気持ちを抱いているのではないかと思うのです。

といっても、この作品はアリスそのものではなく、全く別の世界でのお話。
ざっくり言うと、「緑の少女を探す少女と少年達の、消えない痛みの冒険物語」です。
精神世界に関わるので、抽象的な世界観なのですが、
演じる以前に読み込むのがなかなか難しいかと思います。

この作品で登場人物が抱える痛みは、ファンタジーな世界観から想像するより、
深くて重いものでした。
現実にも、人それぞれが抱える「痛み」。
人は痛みを覚え、忘れもする。でも消えることはないですよね。
忘れないように刻んでおく人もいれば、記憶の底に封じ込める人もいる。
そのどちらが正解かなんて言えない。
大事なのは、その人が痛みをちゃんと認識して、受け入れられているか。

人それぞれに痛みがあって、その受け止め方があるように、
この作品では、それぞれが主人公のように、私には思えました。
お芝居って登場人物が増えるほど、主役と端役に格差が生まれがちで、
端役になった時は、そのシーンに至るまでを自分で埋めなくちゃいけないですけど、
そういう意味で、この作品はそういういわゆる「端役」的なものがない。
どの役になってもハイライトがあるのです。
こういう作品ってなかなか珍しいですよね。
まさしく卒業公演という「はなむけ」にふさわしい!
表現を始めたばかりの人にとって、これは大きな糧になると思うのです。

そんな誰が主役かわからない中で、冒険をするのは
キティ、リキ、ルークという、一人の少女と二人の少年。
携帯電話にメッセージが届き、それをヒントに緑の少女を探すというゲームは、
今で言うところの謎解きゲームのようです。
誘われる場所(ダンジョン的なもの?)が、「春の海」など、
季節の名前がつけられているのがまた素敵。
西田さんは公演のことを「season」と数えるので、
季節にとてもこだわりがあるんだろうなぁ、と思います。

各ステージでは各々指令があるのですが、中でも「春の海」でのゲームは面白かった。
平たく言うと背比べなのですが、正解があとでわかる背比べ。
何かの順番を予想して並ぶんだけど、そのお題があとからわかると言う。
実際の劇中ではほぼアドリブになるかな?
だけどこの部分だけを取り上げて、ウォーミングアップとしても使えそうですよね。

アリスといえば、ハンプティ・ダンプティ。
この作品にも登場してきて、ゲームへ誘う役割のサダム・Nが、
「ハンプティ・ダンプティ」を名乗っています。
サダム・N役になった人は、見た目の役作り、しっかりやらないとですね。

さて、大事なキーワードとなる「緑の少女」とは何なのか?
これも役柄によって違うし、正解は一つではないのだと思います。
それぞれが自分の「緑の少女」を見つけること。
それが、この作品を演じる中での課題だと思います。


GOOD-BYE JOURNEY
こちらは、百年戦争でオルレアンを解放した一人の少女、
ジャンヌ・ダルクの物語。
この作品は、ワークショップだけにとどまらず、
アンドレの本公演でも上演されました。
その時ジャンヌを演じられたのは、高梨臨さんだったんですよね!

ジャンヌは本当に普通の少女。
羊飼いの娘で、剣など握ったこともない。
ただ、天の声を聞いたとかで、本人もよくわからないまま、
「聖女」としてまつりあげられてしまいます。

何もない少女が、国を任されるとは、どれほどのプレッシャーだろうか。
自分で望んで獲得したものは別として、
舞台でも仕事でも、自分の知らないところで、
何かに選ばれるというシチュエーションはあると思います。
それが本人にとって必ずしもすんなり受け入れられるとは限らず、
時に何かを失わせてしまうこともある。
選ぶ方は本当にそこをしっかり考えてほしいと思うわけですけれども。

ジャンヌは自分の運命を受け入れて、彼女なりなひたむきさで頑張ってきました。
だからこそ、ジル・ドレをはじめ、オリヴィエ、ジャン…と、
戦場の猛者たちがついてきたんだと思う。

舞台のことで言えば、主役ひとりがいたところで、お芝居は成立しない。
しっかり支えてくれる共演者たちがいるのです。
この作品はその構造がとてもしっかりしていて、
安心して演じられるのではないかと思います。

世の中には「主役」になるタイプの人と、「助演」になるタイプの人がいます。
私は何かの主役になるタイプではありません。
だけど、精一杯、主役を支えられる人間になりたい。
田中良子さんが演じたオリヴィエのように。



とはいえ、人生においては、誰もが主役なんですよね。
だとしたら、支えてもらえる人を大事にして、
自分が主役の人生をしっかり生きる。
逆に、誰かが主役の人生においては、最強の助演になる。
要は、主役でも、助演でも、与えられた役割をしっかり生きること!
とっくに生徒ではない私にも刺激になりました。



Re:ALICE (CLASSICS)

Re:ALICE (CLASSICS)

  • 作者: 西田 大輔
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/07/01
  • メディア: 単行本


「緑の草原で緑の服を着た
思い出という少女が
キミを待ってるだろう。ゲームスタート」
ハンプティ・ダンプティを名乗る男に誘われ、
二人の青年と一人の少女は、不思議な世界へと踏み出す。
携帯電話に届くメッセージをヒントに、かつてのアリスを同じように。
これは、消えない痛みの冒険物語。
Re:ALICE


さよならではない、この旅の始まりを
—――————「GOOD-BYE JOURNEY」
小さな村の羊飼いの娘が、救世主として立ち上がる。
彼女の名は、ジャンヌ・ダルク。
百年に渡る長き冬を終わらせるため、
聖女でも魔女でもない少女が見せる、たったひとつの春の物語
GOOD-BYE JOURNEY

タグ:西田大輔
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