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大奥 9

前巻からあまり間を置かない発売になりましたが、
今回は将軍や政策というよりも、
ひたすら赤面疱瘡と奮闘するストーリー。
これが、今のコロナの状況と重なる部分がありまして、
考えさせられるところがありました。

それは亡き徳川吉宗=有徳院の、生前なしえなかった心残り。
9代将軍・家重は引退し、娘の家治が10代将軍となった際、
吉宗の遺志を継ぐ田沼意次が側用人に取りたてられた。
そして、赤面疱瘡の治療のため、蘭学者を江戸に集め、
赤面疱瘡について研究させる命を受ける。

それに先立って、長崎から御右筆として採用されたのが、
前巻で登場した吾作改め、青沼。
オランダと日本の混血であるがゆえの、青い瞳にちなんでつけられた。

青沼が大奥に来たのは、大奥の中で志ある者たちに、
蘭方医学を講義するため。
御半下から上臈御年寄まで、身分上下無く、
学びたい者は誰でも青沼の元に集ってよいことに。
また、講義の間ならば、それぞれの役目の仕事は休んでも良いと。

しかし、いざ講義を始めてみると、案の定、誰も聞きに来なかった。
ただひとり、御右筆助の黒木は、唯一の受講生になった。
その後、青沼の元に受講希望者が来たのは、数日後のことだった。
昼はみんな仕事があるから、夜の講義を増やそうとしたところだった。
ただ、その者は昼にやってきた。
名は伊兵衛。呉服の間に勤める者だが、男が縫物なんかやれるか!という反抗から、
昼間、呉服の間の仕事をやらなくて済むという都合で、講義に来た。
最初はその反抗的な態度から、黒木や青沼と衝突したが、
その後も毎日、伊兵衛は講義に通うことになる。

大気に湿気が無い、乾いた寒い日が続くと、
質の悪い感冒が大流行することがある。
これは現代も同じですが、この冬はまさにそんな気候だった。
そんな中、青沼の元に、急病人の一報が入る。
御半下の者が3人いっぺんに、昨晩から身体の節々の痛みを訴え、
夜が明けたらひどい熱が出ているという。
青沼が診察したところ、喉が真っ赤に腫れているが、鼻水はほとんど出ていない。
そして燃えるような高熱。
これはつまり風熱、今で言うインフルエンザでした。

当時、御半下のものは大部屋で一緒に寝るのが普通、
他に隔離できる部屋などなかったのですが、
黒木のひらめきで布団部屋を使うことに。
また、看病に協力した黒木や伊兵衛には、
自分たちが感染しないよう、サボンでの手洗いを指示した。

サボンは、当時、手洗いの習慣がなかった大奥に、
青沼がお土産として持ってきた汚れ落とし=石鹸。
コロナ禍になって、改めて手洗い・うがいの重要性を痛感しましたが、
蘭学やオランダとの交易がなければ、このような石鹸で手を洗う習慣も、
根付かなかったのかもしれないのですよね。
そう考えると、無知とは恐ろしい。。。

結局、青沼たちの働きで、御半下たちの感染を最小限におさめることができた。
ただ、それ以外の大奥内のほぼ全ての役職から、
総勢24名が流感で亡くなるという深刻な結果になった。

サボンの効果を聞きつけた将軍・家治と、御台の五十宮が、
青沼の元を訪ねる。
そこで将軍・家治は、大奥の掛かりでサボンを取り寄せて、
大奥の者達みんなに配ろうと思っていることを告げるが、
ここで青沼が重要なことを告げる。

確かにサボンには病を防ぐのにある一定の効能があると思う。
しかしそれは例えば今回のような流感の場合、
全ての人々を健やかに保つ事を意味しているのではない。
今回サボンを使った者が誰も流感に侵されなかったのは、
多分に偶然も働いておりましょう。
残念ながら、人はまだ病を完全に防ぐ術を見つけた事はない。

現に、青沼はサボンに使っていても、赤面疱瘡にはかかった。
このことは、現代のコロナ対策や他の感染症でも同じことが言えますね。
石鹸で手洗いしてても、かかる時はかかる。
それだけではない、もっと予防的な方法を考えなくてはいけない。
コロナについては、今はワクチンがありますが、
赤面疱瘡も同様に、今で言うワクチンを作ろうとする動きが見えてきます。
これを読むと、ワクチンが作られていく過程がよくわかりますね。
それまではそもそも「予防」という概念がなかったり、諦めていた病気に対して、
予防をするという動きが出て、現代に繋がっていく。
本当にありがたいことです。

それにしても、吉宗以前は洋書が禁じられていて、
それまでの通詞たちはオランダ語を書き付けることもせず、
耳だけでオランダ語を覚えいたそうで。
オランダ語の本を読むことも禁じられていたので、
辞書を作ることもできなかったなんて、
外資系に勤めてるものの語学力で苦労してる私には信じられない!
頭が下がります。


前巻で登場した平賀源内。
全国を自由に飛び回っていますが、大奥も自由に出入りしており、
文字通り、作品内でも自由に動き回っている存在です。
性別は女だけど、男のなりをしているキャラクターです。
この男女逆転の世界で、男装は普通ですけど、
もしかしたらLGBTQなのかもしれないですね。

源内はいろんなことした人だけど、
「地獄の沙汰も金次第」というワードを言い出したなんて、初めて知ったよ。

青沼は源内の神出鬼没さや奇抜な発想に苦手意識をもっているようですが、
こういう変わった発想が、歴史を変えるもとになるのですよ。


さて、今回は赤面疱瘡の研究から、蘭学、そして予防医療についてと、
医療そのものの歴史を見ているような巻でしたが、
将軍家のドロドロ劇もありそうです。

と、ここで少しおさらい。
吉宗には3人の娘がいました。
長女は9代将軍・徳川家重、
次女は田安徳川家の初代当主・徳川宗武。
三女は一橋徳川家の初代当主・徳川宗尹。

徳川宗武はかつて、9代将軍の座をめぐって、
姉の家重と対立したが、結局将軍の座に就いたのは、家重だった。
宗武は母吉宗の創設した田安徳川家の当主におさまることで、
事は落着したかに見えたが、
「自分こそ将軍にふさわしい器であったのに」という宗武の不満は、
彼女の胸の中でずっと燻り続けていたのです。

吉宗が家重を9代将軍にさせたのは、
長子相続を徹底させ、跡目争いを起こさぬことこそが、
徳川政権を盤石するためにはどうしても必要だったから。
姉妹の中で一番聡明で知られた宗武には、
もし長子相続の定めがなかったら…と、納得しがたいことではありました。

そしてその宗武は、死の床にある。
そこへ娘の徳川定信を呼び寄せ、自身の果たせなかった夢を託す。
つまり、次の将軍になること。

そしてもう一人、徳川治済。
徳川宗尹の娘で、母の後を継いだ一橋徳川家当主。
こちらも徳川家治や徳川定信と同じく、8代将軍・徳川吉宗の孫。
あれだけ将軍になることを熱望していた定信は、
治済ら老中たちのはからいにより、陸奥白川藩の松平定邦の養子となることが決められる。
松平と聞いて、そう、あの「松平定信」です。
松平定信は、吉宗の孫だったんですねぇ。
こうして、定信の将軍への道は遠のいてしまったのですが、
これでおとなしく終わるわけがない!
ということで、次巻からまたバチバチの争いが見られることと思われます。



大奥 9 (ジェッツコミックス)

大奥 9 (ジェッツコミックス)

  • 作者: よしながふみ
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: Kindle版



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