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美しの水 WHITE

もともとは1998年に源義経を主人公に据えた『RED』という作品があって、
それが根幹になっています。
その後、義経が生まれ平家を討つまでを描いた『BLUE』、
兄・頼朝に追われ平泉で自害するまでを描いた『RED』の2作品になって、
題名が『美しの水』となりました。

そして、今回の『WHITE』はシリーズ三部作の完結編として描かれたもの。
『RED』の冒頭で描かれるプロローグ、
源義朝が若武者・鎌田正近に黄金の太刀を渡すたった2分の場面が、
こんな3時間の物語になったそうです。
当時の俳優たちが稽古中に、「この親父がどんな奴か知りたいよね」と話していたのが、
きっかけだとか。

役を深めていく過程で、作品の中では描かれない部分を埋めていくことがあって、
そういう作業をしていると、ひと作品くらいできることがあります。
それはどんな端役であっても。
スピンオフはこうやって派生するんだろうな、と思います。
今回収録された外伝『黄金』も、そんな感じで生まれたんだろうな、と。

「美しの水」シリーズは、西田さん曰く「大河(ドラマ)」だと言います。
観る側も演じる側も、繋がっていく想いが共有できる世界。
そういう意味では、このシリーズの主人公は義経なのです。
義経が産まれるまでには、命を懸けた想いがあり、仲間があり、
そしてその命が義経に繋がっていく、そんな壮大なシリーズ。
なので、この作品には「出逢うために、生きる」というテーマがあります。

実は「美しの水」は、私がアンドレに初めて出逢った作品です。
舞台は、その時々の俳優や仲間たちとの出逢いもあるけれども、
観客との出逢いもあるわけですよね。
私がアンドレと出逢ったのも、いろんな巡り合わせがあったわけですが、
きっと何かの導きだったのだと思います。
なので、私にとっても大切な作品です!


WHITE
文治5年(1189年)閏4月30日。
源九郎義経、平泉にて自害す。
舞台はそれから、500年の後。
ひとりの男が、句を読み上げる。
「夏草や 兵どもが 夢のあと」

松尾芭蕉の有名な句です。
芭蕉とその弟子、河合曾良をストーリーテラーにして、
義経誕生までの物語を紡ぎます。
だから完結編なのですが、時間軸的にははじまりの物語なのです。


時は1156年(保元1)年、保元の乱の最中。
保元・平治の乱って、教科書に出てきたのですが、
お恥ずかしながらイマイチよくわかっていなかった…
それはこの複雑な対立構造にあったのかと思いました。
そもそも保元・平治の乱とよく繋げて言われますが、
実はそれぞれ別物なんですよね。
この作品でやっとわかった!←そこ!?

で、まずは保元の乱。
こちらは後白河(後の法皇)と兄の崇徳上皇との戦いになります。
妹の後白河が蜂起することを恐れ、崇徳上皇の軍が攻めてくる。
その後白河を助けるのが、源義朝と平清盛なのです。
そう、源平の二人は、友だった。

武をもって源氏を束ねる義朝に、智をもって平氏を束ねる清盛。
正反対なふたりは、友というより好敵手というべきですかね。
お互いに補いながら、保元を戦い抜いていきます。

知能の清盛が考えた作戦とは、奥州の藤原秀衡の力を借りること。
奥州は、藤原秀衡が治める独立国家で、京も迂闊に手を出せないほど。
莫大な金と独自の交易で栄えるもう一つの政権。
噂では17万旗とも呼ばれる騎馬軍団を所持しているとか。
天下を取るには、どうしてもそこの力を欲しがるのは、想像に難くない。
いざ、藤原秀衡を説得に!
最初こそ、我先にという感じだったのが、最終的には互いに力を合わせていました。

ただ、先見の明がある藤原秀衡の関心は、義朝と清盛のどちらが天下を取るかということ。
この保元の乱が終われば、二人のうちいずれかが天下を取るであろう。
そのどちらが天下を取るか、動向を探るために、二人の郎党をそれぞれ向かわせる。
すなわち、平賀静を源氏方に、吉次沙耶を平氏片に。
この二人の郎党、女性なのですが、めちゃめちゃ強いんです!カッコイイ!!
静なんて、義朝から「アマゾネス」なんて呼ばれてしまうのですが、
でも花を愛でたり、女心もちゃんとあって、そのギャップがまた魅力ですよね。
私は勝手に、ベルセルクのキャスカを想像してしまいました。

義朝と清盛を巡る女達はもう一組。
それは、それぞれが抱える白拍子。
もともと、清盛が祇王という白拍子を寵愛していました。
それを見た義朝が、自分にも!ということで、祇王を介して紹介された白拍子が常盤。

常盤は、男が側に置いておきたい女ってこういう人だろうなぁ~と思える女性。
つつましく、優しく、それでいて芯が通っている。
静のような頼もしい女も側に置いておきたいだろうけど、癒しも欲しいでしょう。
共通しているのは、しっかり芯があること。
女はただ男についていくのではなく、敬う気持ちや自らの意志を持っていて、
心からその人を支えたいと思うこと。
そういうのって、男性にはわかるんでしょうね。


保元の乱に続く平治の乱では、いよいよ義朝と清盛のどちらが天下を取るかが決まる。
天下取りは二人も要らないのです。
そこに、常盤も巻き込まれていく。
また、義朝と清盛をそれぞれ想う女たちの一方通行な想いもあったり。
その女を想う切ない想いもあったり…。
複数の男女の、それぞれの想いが絡み合って、なかなかやり切れない物語。

と、私も女なので、どうしても女目線で見てしまうのですが…。
でも戦乱の時代、男たちのアツい友情も外せないよね。
個人的には、義朝と清盛は、やっぱり友だったんだと思います。
戦友という名の友。
これまたベルセルクでたとえると、ガッツとグリフィスのように思えてしまうのですが…。
女にはなかなか生まれにくい関係で、ちょっとうらやましいと思ったり。

義朝と清盛にはそれぞれ、頼りになる部下がいました。
義朝には筆頭郎党として鎌田正清が、
清盛には古くから友人として尽力する、紀伊州棟梁の湯浅宗重が。
二人とも長く使えているだけあって、その忠誠心は凄まじいのです。
時代ですねぇ。

中でも源氏郎党の一人、渋谷金王丸には相当の思い入れがあると思います。
それは「黄金」としてスピンオフされるほど。
ということで、ここからは「黄金」のレビューに移ります。


黄金
「PURPLE」と名づけられた外伝の一編です。
源氏郎党の渋谷金王丸にスポットを当てています。

あれから、金王丸は常盤御前を守り、隠遁の生活を送っていました。
義朝との子である義経を産んだ常盤は、俗世を捨て、ひっそりと生きていました。
そんな金王丸と常盤が、在りし日のことを回想していく物語。

実は金王丸、平賀静に惹かれていたのです。
周囲に応援されながら健気にアタックしてみるのですが、
残念ながら静の気持ちは義朝にあるようで…。

だけど、大事な時、静のそばにはいつも金王丸がいるんですよ。
叶わないとわかってても、静の想いが届くように尽力する、
その健気さにまた泣ける。

静は実は、先の戦の時に、藤原秀衡との子を産んでいた。
その子に名をつける前に、討死してしまう…。
最期の時もそばにいたのは金王丸でした。

二人は武将だから、いつ死んでもおかしくない。
そんな中、静と金王丸がかわした会話がとても印象的でした。
静は金王丸から花を受け取る。
もし金王丸が死んだら、大事に持っててやる、と。
花の命を奪ったんだから、その分生きろよ。
そのかわりに金王丸も静に何かくれとねだる。変な意味じゃなく。
その時の静の答が、「静」の名前だった。
もし金王丸が生きる事ができて、結婚して、子供ができたら、
静という名前をつけてほしい、と。
何とすさまじい覚悟!
現代で同じ状況にはならないけど、やっぱり生きる事は覚悟だなって思う。

結局、静の名前は、静が遺した子につけられます。
そして、やがて義経に出逢う。
時を超えて、静の想いが義朝に届くところに、鳥肌が立ちました!


こうして、義経へと繋がっていく物語。
できれば、他のREDやBLUEも戯曲化していただきたいです!!






美しの水 WHITE

美しの水 WHITE

  • 作者: 西田 大輔
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: 単行本


義朝の
心に似たり
秋の風

悲劇の英雄・源義経の誕生に
隠された、ひとつの想い。
歴史に埋もれた、始まりを告げる者たちの儚い群像劇。

天下を二分した源義朝、平清盛。
そして、後の世も歴史も
見つめることになる
一人の女、常盤御前。
保元・平治の乱を背景に、
壮大な序幕を告げる『美しの水』
———第一章

——物語は
   白から始まり、
    青を宿して、
     赤になる。


「じゃあさ、
 私の名前
  貰ってくれよ。」

源氏郎党・渋谷金王丸。
保元・平治の乱で
主君・義朝を失った彼が、
後世に残した光り輝く風景。

——番外編『黄金』
   同時掲載
タグ:西田大輔
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