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下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。

大泉さん初の脚本・演出の作品で、いつもとはちょっと違うテイストの舞台です。
全64公演、動員数53,000人で、私もその中の一人です。
私が言うのも何ですけど、あの過密スケジュールの中、よく書き上げたなぁ~、と。
タイトルだけ最初に決まり、中身は何もない状態から始まりました。

今回いつもと違って特筆すべきは、その作り方。
ある程度完成した台本を持ってきてブラッシュアップするのではなく、
「台本打ち合わせ」と呼ばれるミーティングをして、
メンバー間でアイディアを出し合って作り上げていくというもの。
メンバーそれぞれがソロとしても活動しているので、
そのみんなのアイディアが集まれば、それは良いものが作れることでしょう!

タイトルが指し示す通り、NACS5人が演じる、5人兄弟の物語。
大泉さんは、ファンが何を見たいか、ファンが自分達に何を求めているかを考えたときに、
5人の独特の結束というか、妙に仲の良い人間関係だということにたどりつき、
5人が兄弟だったら…という発想に至ったそうです。
そうなんですよ、彼らの不思議な関係が、いつ見ても何だか面白いんですよね。
ベッタリ仲良しというわけではなく、言い合ったりもするんだけど、結局一緒にいる。
この5兄弟は、NACSにしか演じられないものだと思いました。

その配役がこちら。
長男・大造(たいぞう)=森崎さん
次男・大洋(たいよう)=音尾さん
三男・剛助(ごうすけ)=安田さん
四男・健二(けんじ)=大泉さん
五男・修一(しゅういち)=シゲさん

いつもの通し番号と順番が違う!?と思うのですが、
一番年下のはずの音尾さんの貫禄だったり、頼りないシゲさんだったり、
これがしっくりくる並びなんですよ。

物語は「家族とは…」という長文のスクロール投影から始まります。
どういう話なのか想像を膨らませながら幕があがるのを待っていると、
いきなり全裸の安田さんの後ろ姿!
今までこんな完璧な全裸で舞台に登場した役者を見たことがない!
そしてすぐ服を着るのかと思いきや、そうでもなく、そのまま芝居が始まっていきます。
途中ヒヤッとするような動きもあるのですが、
今思うと、アキラ100%が出てくる何年も前に、裸芸を極めていたんだな~、と。
さすが安田さん!DVDだとよく見える背中やお尻がキレイです(笑)

リラックス感満載の始まりですが、状況としては亡き父親の「10年祭」が終わった後。
いわゆる法事が終わった後、家で家族でゆったりする、というシーンです。
「10年祭」というのは、神道での言い方のようですね。
私も神道の式に出たことがないので、なじみがないのですが、
大泉家の宗教が神道だそうで、かなり独特の形式のようです。
NACSメンバーが驚いたのは実話。

今回、大泉さんが脚本・演出をする中でこだわったのが「ナチュラル」。
いつものリーダーがつくるお芝居だと、派手な音楽があって、派手な見せ場があって、
これぞ舞台!というか、舞台映えがするお芝居なのです。
が、今回はいつもと違うことがしたい。
ということで、ホームドラマに近いような作品になっていて、
なるべく普通のお芝居をして、会話をちゃんと見せれる作品に仕上がっています。
かといってドラマをそのまま舞台でやっても何なので、舞台ならではの仕掛けもあったりするのですが、
ただ、楽しい掛け合いでリアルなお芝居を舞台で見せる、というのはなかなか高度なのですよ。
舞台だと通常、非現実な演出によって助けられる場面もあるのですが、今回はそうではなくリアル。
舞台という、そもそもが異空間での「リアル」って難しいのです。

そのリアルさの表現に一役買っているのが、舞台セット。
下荒井家を切り取って、断面的に部屋の中から見ていると言えばいいのかな。
間取りがまた絶妙で図を書きたいくらいですが。
メインとなるのが下手側半部を占めるリビング。
役者は中央にある扉から出入りします。
リビングの一番下手からはキッチンへと続くはけ口があります。
そして中央の扉にあるのは、何とお風呂!
このお風呂も活躍します。
それから何と言っても目を引くのは、上手側の小上がりになった和室と、その上の2階部屋。
この2階の部屋は、引きこもりの健二の部屋になっていて、
主に大泉さんが階段を上がったり下がったりしてきます。
和室には大事な大事なお父様の祭壇もありますよ。
詳細は特典DVDで、シゲさんが詳しく説明してくれているので、そちらを是非。
よーく見るとペルシャ絨毯っぽいけどそうじゃない絨毯とか、
私の祖父母の家にもあったな~って、懐かしくなりました。
今の時代の話ではあるんだけど、あえてNACSメンバーが生きてきた時代を感じるセットで、
彼らの実家だったり、つまりは原風景ってことですよね。
このノスタルジーがまたいい味出してくれるのです。

オレンジのソファーが印象的なリビングでのやり取りは、
メンバーのいるもよりナチュラルを心がけた芝居のおかげもあって、
本当にホームドラマを見てるような気分になりました。
かといって退屈でないのは、抑えた芝居の中でも織り込まれる絶妙なギャグだったり、
次々とくるドタバタな展開だったり、
和室スペースまでを使ったアクションシーン(?)だったりと、
ナチュラルと脚色が、絶妙なバランスだったんだと思います。

さて、物語は5人兄弟だけで進むのではなく、他にも登場人物がいます。
それも女性!
NACSファンにはおなじみの、女装メンバーが登場します。
今回は多くて、シゲさん、音尾さん、リーダーが女装します。
「ナチュラル」を心がけているのは女性キャラもそうで、
どの女性も「いそうだな」と思ったのです。
まぁ、リーダーはちょっと出オチ感はありましたが(笑)
後から言われて気がついたのですが、今回の女装では、全員メイクをしていないんです。
男性の場合、アイラインや口紅を塗ってしまうと、その途端に「オカマ」に見えると。
確かにそうかも!
そこでメイクはせずに、こだわったのはウィッグでした。
ウィッグだけでこんなにキレイ変わるんですね!!
それから、シゲさんのスラリと伸びた脚にも注目で、悔しいほどレギンスがよく似合います。

見た目だけでなく、女性らしい仕草にも注目。全く不自然じゃないんですよね。
シゲさんみたいな、夫を尻に敷くタイプの妻、いるいる!!
音尾さんの世間知らずなお嬢様も意外に似合っていました。
これはこれでいそう!
マリリン・モンローみたいにスカートがめくれ上がるシーンは名シーンです。
キレイにめくれるように、スカートの素材などこだわったようですよ。
リーダーの女装についてはあえて語りません。

それから、女装とおなじく名物?の、メンバー同士のキスシーン。
今回はシゲさんと音尾さんでした。


物語は実は2部構成のような感じになっています。
前半は、長男・大造が勘違いで失恋する話。
これは健二の些細なイタズラなんですけどね、ここまで切ない結果になるとは…!
見てて辛くなりました。
成就するわけないのが、観客にはわかっちゃいますからね。
しかもそれが結構長い!
健二の「殴ってくれ」には、演出かとしての罪悪感も込められていたのでしょうか。

勘違いした大造の衣装は、COMPOSERでリーダーが演じたサリエリにしか見えない!
あの時はみんながこんな重厚な衣装を着ていて普通だったんだけど、
舞台が変わるとものすごい違和感なのですが、
それがまた舞い上がり過ぎたテンションを絶妙に表現してて面白いですね。
このあたりのシーンは、シゲさんの言葉を借りるなら、「芸もしない大型犬」。
このたとえ、よくわかる気がします。
バカかわいらしさというか、空回りしてる感じがすごくわかりやすいのです。
だからこそ、よけいに哀れに思えちゃうんでしょうね。


そして後半は音信不通だった次男の大洋が帰ってくる話。
その音尾さんが演じるヤクザな大洋の初登場シーン、
「アロ~ハ~」という挨拶なのですが、ものすごい貫禄とインパクトでした!
あれはもう、一種の歌舞伎ですね(笑)
そして直前まで演じていた女役からの変わりよう!
同じ役者とは思えないです。すごいなぁ。

この切り替わりのところでは、早替えの荒らしですよね。
女装⇒男装だったり、結構衣装のアイテムが多いので、
裏では大変だろうなぁと思いつつ、さすがプロ!と余計なところに思考が働いてしまう。

絶妙なところで物語に関わったり離れたりするのが、健二。
引きこもりという役どころがうまい具合に行ったなぁと思うのですが、
彼は2階の部屋で何をやっているかというと、盗聴。
家中のあちこちに盗聴器を仕掛けたり、あらゆる手段で盗聴するプロ。
健二お守りなんていうポータブル型のアイテムもありまして、
これグッズ化されてたら買ったな。もちろん盗聴器は仕込まれてないですが。
この盗聴が、後の展開にとても重要で、盗聴も役立つんだなぁと誤解してしまうくらい。
盗聴で感動させられることができる人は、そうそういないんじゃないでしょうか。
題名こそ「健二最初の盗聴」とされている盗聴テープも、
実は間違って録音ボタンを押しちゃっただけのかわいいエピソードだったりします。

2階の健二には重大な仕掛けがあって、何と床が抜けるのです!
落ちるのは音尾さんなのですが、こういう落ちる演出を大泉さんは昔からやってみたかったそうです。
満を持しての仕掛けは、伝説のシーンになりました!
このあたりのシーンはかなりカオスで、ドタバタ劇ならでは。
面白い裏話として、音尾さんが床から落ちる時に、
階下の和室に畳んで置いてある布団がマットの役割をするのですが、
このシーンに至るまでに安田さんがこまめに布団の位置を調整しているのです。
結構この和室に一番よくいて、和室の主と化してるのは安田さんだと思います。
個人的には、そそくさと布団敷いて寝ちゃうシーンが好きなんですけどね。

芝居は段取りと演技の狭間で、役以外にもいろんなことを考えなきゃいけないんです。
その点、舞台は何度も練習してできるから良いんですよね。

演出上、6人目を登場させなきゃいけない事態になるのです。
もしかしてこれが、このお芝居の最大のピンチか!?と思ったのですが、
驚くべき方法で切り抜ける!
こういうアイディアも、稽古を重ねていて生まれたアイディアなんでしょうね。
そういうアイディアが至るところに散りばめられています。

話がちょっとそれましたが、安田さん演じる剛助という人も大変な人で、
なかなか大変な役だと思います。
慌てる安田さんの変なステップとか、揉み合いの場面で畳で滑って転んだのはガチだと思うけど、
テンパった時の安田さんの動きは、ずっと見ていられますね。
ここで、そういえば全員靴下なんだなってことに気付きました。
家の中でのお話だから、当たり前なんですけどね。

いろんな事情を抱えた兄弟5人が揃った時、やっぱりこの5人はいいなぁ~って思いましたね。
それを効果的に演出するのが「パトランプ」。
ドタバタの末、引きこもりの健二が立てこもり犯に見られるのですが、
この時に2階部屋から外を覗く大泉さんの悪い顔と言ったら!
ここでもこの2階部屋が効果的に働きます。
で、警察に包囲された体でパトランプがチカチカするのですが、
まるでサスペンスドラマのような状況なんだけど、
逆に家の中では5人が結束している、っていう。
こんな状況だけど、やっと5人が揃ったんですよね。

良いシーンといえば、今回もあります、お歌のシーン。
ここでやっと、下荒井家の家業がギター教室だということが活きてきます。
音尾さんがギターを弾いて、大泉さんとシゲさんが歌うのですが。
かつてシゲさんと「FAN TAN」というユニットを組んでいたことがあり、その再来ですね!
演出上、いいところで演奏中断になってしまうのですが、
特典DVDではフルコーラスで聞けますよ。

チラシを見た時は正直、どういう話なのか想像つかず、
タイトルからして何となくホームドラマなのかな、って思ってたのですが、
いざ見てみると、チラシのような恰好をした人は一人も出てこなくて(笑)
本当にタイトル以外何もないところから始まって、台本も未完成なまま稽古が始まって、
稽古をしながら作り上げていき、本番ギリギリでカタチになったものだと実感。
結果、アットホームでわかりやすい、大泉さんらしい作品になったかな、と思いました。
ちなみに、劇中で集合写真を撮る時、実はチラシの並びになっているのです。
チラシを見たお客さん用にって、何て細やかな配慮なんだか。


特典DVDには毎度おなじみのメイキング映像と、
公演終了後のお花見パーティーの様子が収められています。
お花見の場所は北海道の円山公園。
撮影時期はまだ桜は咲いてなかったのですが、
GWなんかはさぞかし綺麗なのでしょう。
そして北海道でのお花見だとジンギスカンパーティー、通称「ジンパ」が定番なんだそうですね。
「リードヴォー」という、子羊の頃にしか取れなくて、胸腺と膵臓の肉は初めて聞きました。
北海道民はやっぱり、臭みがあるマトンを食べるんですね!、
チラシに使われているクラシックカー、通称「下荒井号」も走りますよ。



下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。 [DVD]

下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。 [DVD]

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD


下荒井家の父・奏助が亡くなってから、10年。
その「10年祭」のために、久しぶりに下荒井家に5人兄弟が集まった。
両親の亡きあと、弟たちの父親代わりを務めたしっかり者だが、女性には奥手でいまだ独身の長男、大造(森崎博之)。
小さな芸能事務所を運営しているが、お金に困っているらしい三男の剛助(安田顕)。
ひきこもりで盗聴マニアの四男、健二(大泉洋)。
大手楽器メーカーに就職し、その会社のご令嬢との結婚話が持ち上がっている五男、修一(戸次重幸)。
そして、家を出たまま音信不通だったが、10年祭に突然帰ってきた次男の大洋(音尾琢真)。
とりたてて幸せでもなく、かといって不幸でもない。
いたって普通の生活を送っていた彼らに、ある春の日、とんでもない出来事が巻き起こる―。
これは狭くて広い日本のどこかに生きている、兄弟の物語である。
タグ:TEAMNACS
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