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ゆめゆめこのじ

明治という時代の礎となった薩長同盟と坂本龍馬暗殺の二つの夜明けを、
遊郭の女を視点に描いた二幕の物語。
珍しく、女性視点の物語なんです。

この作品は、オリジナルは田中良子さんプロデュースの新作として上演されました。
きっかけとなったのは、そんな彼女の印象的な言葉だったとか。
幕末という激動の時代の中で、必死に生きてきた侍たちは、
今日まで当たり前のように描かれている。
その中で波をテーマに物語を描くのかを考えていたときに、
彼女は屈託なく、「女性はいつの時代も必死だもの、勿論今も」と笑って言ったそうです。
女性としてはすごく共感できる発言なのですが、
そんな言葉を手掛かりに、秋雪という女性が描かれました。
だから感情移入しやすいのかなぁ。

秋雪(あきみ)は京都・花街にやってきた遊女。
かつては江戸吉原で看板を張ったこともあります。

秋雪がどういういきさつでこの店にきたのかは定かではありませんが、
この店の遣手である出雲とは、昔馴染み。
この状況から、それぞれの想いと、添い遂げられない運命が容易に想像できて、切なくなりました。
お互い、自分の想いは表さないけどね。特に秋雪は。

このお店にもいくつか決まり事があって、秋雪も出雲から一つ一つ教わっていく。
その中で唯一、秋雪の心を動かしたもの。
それは遊女のことを「ゆめ」と呼ぶことだった。
もちろん「夢」という意味も込められており、タイトルの「ゆめゆめこのじ」とは、
「遊女」と「夢」との掛詞だったのです。
相変わらず、言葉選びの粋なことといったら!!

それから、出雲が秋雪に伝えた、大事な決まり事がもうひとつ。
毎朝、必ず部屋の障子を開けること。
そして、そこから見える景色を焼き付けること。
そこから何が見えるのか。
それは「夜明け」なのかもしれないし、「海」なのかもしれない。
答は、この作品を通して、それぞれが考えることなんだと思います。
なので、演者によっても異なるだろうし、観客それぞれにも解釈があるでしょう。

秋雪の面倒をみた二人の太夫、水狼花(くじばな)太夫と香海(さらめ)太夫。
遊郭といえば上下関係やしきたりに厳しいイメージですが、
水狼花はいかにもそんなイメージの遊女。看板ともなると、さすがの風格です。
香海は対照的に優しい感じ。

二人とも、歴史上重要な人物にとってのキーパーソンでした。
水狼花は西郷隆盛が懇意にしていて、香海は桂小五郎が懇意にしていた女性。
この二人が出会って同じお店で出会ってしまったら、
薩長同盟が結ばれてしまうのでは!?
もしそうだったら、この国の歴史は、遊女が創ってきたといっても過言ではないのかもしれない。

それは、坂本龍馬が懸命に考えた作戦でした。
そのための文をしたためているのですが、そのロマンチストぶりときたら!!
薩摩と長州を恋仲に見立てて引き合わせるなんて。
遊女たちよりも、龍馬の方が女々しいのでは!?なんて思ってしまうけど。

ところが、せっかくしたためた文がなくなってしまう…。
あろうことか、その文を龍馬のいいなずけであるおりょうが拾ってしまう。
てっきり恋文と勘違いしたおりょうは、龍馬が浮気していると思い込む。
そして、龍馬本人のもとへ乗り込んでいくというドタバタ劇。
本人は気づいていないのですが、歴史的大物を巻き込んでの大騒動です。
修羅場になるのかと思いきや、天然キャラが揃っていたおかげでひょんな方向に。

これで終われば喜劇なのですが、そうは行かない。それは史実からもわかる。
そう、龍馬は暗殺されるのです。
このわかりきった史実は曲げられないのですが、女たちが動かしてきたという軸の中で、
それはどう描かれるのか!?
結末は言えませんが、圧巻でした!!


同じ時代を描いた作品として、ついTEAM NACSのLOOSERと比べてしまうんですよね。
比べるといっても優劣をつけるのではなく、アプローチの仕方を比較するのですが。
そうすると共通点が見えてきたりして、面白いなって思います。

中でも興味深い共通点を感じたのは、桂小五郎の変装好き。
LOOSERでは、音尾さんが魚に擬態してたりしたけど、
この作品では乞食に身をやつしてたり、バレそうになると「にゃー」と言ってごまかしたり。
実際に変装ばっかりしてたのかしら!?と疑いたくなってしまう。
どちらの作品も、教科書に載らないところに焦点をあてて、
それは空想も含まれるかもしれないけど、歴史を身近なものにしてくれているので、楽しめます。

全くの余談ですが、以前私が芝居をかじっていた時に、舞台で遊女の役をいただいたことがありまして、
その時にイメージしたのが、田中良子さんの秋雪でした。
あんな風に凛とした姿にはなりきれなかったかもしれませんが、
芯の強い女性でありたいな、と表現した覚えがあります。



ゆめゆめこのじ

ゆめゆめこのじ

  • 作者: 西田 大輔
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2009/06/01
  • メディア: 単行本


―この国はね、
 遊女たちが創ってきたんだ。

京の花街を彩る遊郭。
そこに息づく「ゆめ」と呼ばれる女たち。
江戸吉原から初めて京にやってきた秋雪が出逢ったのは、
こじきに身をやつした桂小五郎、
相撲力士に間違われた西郷隆盛、
そして、恋文をなくした坂本龍馬――。

果たして薩長同盟は無事結ばれるのか、
そして龍馬暗殺の真相とは。

遊女たちが創った二つの夜の物語。


かなれど かなし
あれど なし
いをえばうほど
あなたのにはとおりゃんせ
努々ひとえに路遠
ゆめゆめ ゆめこのじ

タグ:西田大輔
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