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シンクロニシティ・ララバイ

西田大輔さんの第二戯曲集!
ファンタジーとSFを掛け合わせた、不思議な物語。

ベースになっている物語は「オズの魔法使い」。
の最後、主人公ドロシーが気球に乗ってカンザスに帰る時に、
うっかり愛犬トトのことを忘れてしまう場面。
物語的にはすぐにトトのことを思い出し、慌てて探し出して幕を閉じるのですが、
このたった数行ともいえる場面をモチーフに広げられた作品です。
あの壮大な物語の中で、ほんの小さなこの場面をひろう着眼点や発想力もさることながら、
この一瞬、悲しくなったであろう愛犬トトの方に感情移入したという繊細さに、
心をくすぐられました。

完全オリジナルなこの作品には、ドロシーもトトも登場しません。
でも「オズの魔法使い」のエッセンスが、
ところどころに散りばめられているのは確実です。

物語はとある不思議な街で。
一人の科学者のもとに、一人の少女が訪れることから始まります。
少女は記憶をなくしていました。
でも、この街にいれば何か思い出すかもしれないと、
ドロシーほどではないけど、少しの冒険をします。

その頃、一体のアンドロイドが完成する。
名を「ラケル」。
ラケルは優秀なアンドロイドで、どんどん人間らしくなっていき、
少女の記憶を思い出す旅の支えになります。
さながらドロシーの愛犬トトのように。

アンドロイドはラケルだけではなく、他にもいます。
「スペード」は何者にも臆さない。簡単に言うとただの礼儀知らず。
「クラブ」は全てを受け入れ、良心で包み込む。つまり、イエスマン。
「ジャック」は面白いという特性を持つ。(実際はあまり面白くない)。
このように、彼らはそれぞれ、特性を与えられている。

ここからはSFの話。この方面が得意な方には、興味深い話だと思います。
アンドロイドは限りなく人間に近いけど、決してそうではない。足りないところがある。
それが「着地点問題」。
彼らは対象を全て明示的に記号化し、論理的基盤のもと形成していく。
だから彼らの世界で形成出来ないものに対しては力を持たない。
こう言われると、SF嫌いじゃない私でも、いまいちピンとこないのですが、
例えば「花」で説明してみる。
一輪の花を彼らは「花」と認識する。彼らにとって充分に記号化された世界。
だけどもしその花が枯れて、しわくちゃなものにとなった時、彼らはそれを記号化できない。
花が枯れて完全に形を変えれば、彼らはそれを花とは呼べない。
これが人間との違い。
だから彼らには「特性」を与え、少なくとも一つを深くし、着地点を見つけられるように、と。
つまりは「人間らしさ」みたいなものではないかと、私は解釈しました。
こうしてたくさんのアンドロイドたちと人間が、この街では共存しているというのです。

ところで、実はこの作品、二つの時間軸の世界を行き来しているのです。
戯曲の最初のト書きには書いてあるのですが、
舞台を観ている人にはわからず、あたかも同時進行しているかのように見えるでしょう。
このシンクロニシティが何を意味しているのか!?

そのもうひとつの時間軸では、3人の訪問者が科学者のもとを訪れる。
それこそ「オズの魔法使い」の主題歌のように、虹の彼方の国を目指して。
【OVER THE RAINBOW】は日本でもすっかり名曲、私も大好きです。
百貨店で雨が降ったことを報せるサインミュージックというのがあって、
耳にすることがある方もいらっしゃるかと思いますが、
逆に雨があがったことを報せるサインミュージックもあるのです。
こちらはめったに流れないのですが、そのサインミュージックに使われることもあり、
あの雨上がりの晴れ晴れとした感じが味わえるのが、何とも言えないですよね。
もっと流してくれればいいのに。
話がそれましたが、オズ・クロ・マイの3人は、この曲さながらに街を訪れ、
いつか色とりどりの花を咲かせたい、みんなでトランプゲームがしたいと、
科学者に頼んでみる。ここでは科学者は何でもかなえられる魔法使いのよう。
この街で花を咲かせるのは無理だけど、
トランプゲームなら、少女が迷い込んだ時間軸で、「パレード」という名で行われていた!

ところで、タイトルにも入っている「シンクロニシティ」。
色々な解釈がされますが、「意味のある偶然」とも解釈される。
偶然に意味があるとしたら、それはもう必然、ひいては運命とも言える。
このように人は、偶然にも意味を見出そうとするのです。
特に悪いことが起きた時は、「何で私が…」という気分になる。
トランプゲームでジョーカーを引いた時とか、そう思うことがあるかと思いますが、
人はそうして、意味を見出さないと理解できないものなんです。

よく西田さんが、「生きることは出逢うこと」と仰っていますが、
舞台を作る上では、多くの役者さんやスタッフさんとの出逢いがあって、
その人たちの集まりから、偶然の発想が生まれて、舞台が完成していく。
舞台とはまさしく「シンクロニシティ」の賜物なのです。

そんな中、今回も名言がありました。

君はいつか止まる。君の時間は必ず止まる。
それでも下を向いてはいけない。
生きることは、捨てたもんじゃないからね。

これは、科学者がアンドロイドを完成させた時、必ず最初にかける言葉。
アンドロイドの構造上、物理的に下を向いたら止まってしまうのかもしれないけど、
人間に希望を持たせる時のメッセージとも取れますよね。
生きていれば、いろんな出会いがあったり、いろんなことが起きたり、
いろんな偶然の積み重ねで奇跡が起こることもある。
だからそう悲観することもないんじゃないかって。
鳥が卵の殻を打ち破って生まれるように、殻から抜け出すこと。
奇しくも「ラケル」というのは、「卵」という意味だそうで、
これにもそんな意味が込められているのかなぁなんて。
一つ一つの要素に意味を考えていたらキリがないですけど、
こうして色々考えるのも楽しいです。

って、舞台観ている間は、こんなにじっくり考えられないだろうけど。
こうして改めてじっくり冷静に考察できるのも、戯曲ならでは。

演出面では、最後には舞台上に実際の雨が降り、
色とりどりの傘の花が咲きます。
これは実際に見たら鳥肌が立ちますよ。


シンクロニシティ・ララバイ

シンクロニシティ・ララバイ

  • 作者: 西田 大輔
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2006/05
  • メディア: 単行本





世界がどんなに壊れても
僕はずっとここにいる

一人の科学者。その男が造った一体のアンドロイド。
そして来るはずのない訪問者。
全ての偶然が重なると、不思議な街に雨が降る。


誰かがカードのウワサシタ。
僕は妙にキニナッタ。
僕のポケットのトランプは、
その夜イツシカ消えていた。

私がカードのウソツイタ。
トランプなくした男の子。
千年待ったらそのカレハ、
カードの意味にキヅクダロウ。
タグ:西田大輔
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