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蟲師 3

錆の鳴く聲
「野錆」という蟲を寄せ付ける不思議な声を持った少女の話。
「しげ」という名の少女が暮らす町では、錆のような蟲に体中を蝕まれ、動けなくなる者が続出していた。
その理由は、しげが出す声に、蟲が寄ってくるためだという。
しげ自身、蟲が原因だとは知らなかったが、自分の声が異常を生み出していることは気づいていた。
そのため、しげは14年間、誰とも話さず、ひとことも声を出すことはなかった。
歌ったり、その日1日あったことを誰かに話すことさえできないなんて、私には耐えられない。
それどころか彼女は、災いをもたらす声を潰してしまおうとすらしていた。
ギンコによると、その声は蟲が発する声に似ていて集まってきてしまうという。
だから彼女の声で、蟲を村から遠ざけて、散らすことに。
錆のような蟲が集まってくる声ってどんな声だろう?と思っていたら、歌手のUAさんのような声がイメージだそうです。
ハスキーだけど甘さがあって、魅力的な声ですよね。
私にはとてもマネできない。
声って本当に個性があって、それぞれに魅力的な部分があると思うんです。
その声をどう活かすか。これは私にとっても課題。

海境より
二年半ほど前、妻と奇妙な別れ方をした男の話。
夫婦は夫の田舎へ戻るため舟に乗っていた。
その途中、ちょっとした諍いがあり、二人は別々の舟に乗ることに。
ところが妻・みちひの乗る舟は沖でもやのようなものにからまれ、行方不明になってしまう。。。
それ以来、夫・シロウは海岸で沖をずっと眺めていた。
話を聞いたギンコが調べてみたところ、みちひを攫ったもやは蟲によるものだった。
そして3年くらい経つと、その蟲がまた同じ海へ戻ってくるという。
諦めきれない夫は、かつて妻が乗っていた小舟を見つける。
なんとそこには、昔と変わらない妻の姿が横たわっていた!
しかしそれは蟲が変体した姿であり、夫をも沖へさらおうとしていた。
ギンコのおかげで無事に生還したが、少し沖に出たつもりが、村では一月も経っていた。
三途の川じゃないけど、沖にはここを超えたら戻れなくなるっていうものがあって、それが「海境」なんだろうね。
ファンタジーだからこそ、「ちょっと沖に出たつもりが、村ではだいぶ時間が経っていた」となっていますが、
実際に、残されたものが待つ時間は、物理的な時間よりも相当長く感じるものなんだろうと思います。

重い実
天災のたびに豊作になり、代わりに誰かが命を落とす村の話。
その豊作のことは「別れ作」と呼ばれており、かわりにご先祖さまに命をとられるとされている。
そのカラクリは、天災があった年の秋に誰かの口の中に「瑞歯」が生えてきて、
その歯が秋の終わりには抜け落ち、その人は死ぬという。
村では「その命が豊作をもたらしたご先祖さまへの供え物」と伝えられてきていて、人々は恐れるどころか感謝していた。
抜けた歯は祭主がお堂にお祭りするとされているが…。
ギンコは祭主に話を聞きに行くことに。
一人の命で多くの命を救うことができる実があったら、どう使うか。
その実は生命そのもので、操作できれば不死にも蘇生にも使うことができるが、そんなことは無論、禁じ手である。
「瑞歯」もそれと同様で、村のことを考えた祭主が土に埋め、人為的に別れ作を起こしていたのだ。
文字通り、人の手には余る、「重い実」。
ところが祭り主は覚悟を決めていた。自らが最後の犠牲者となって終わらせると。
それを知ったギンコは、蟲師として、意外な行動をとる。
村のことを思って、人のことを思って、強く思うが故に起こしてしまった過ち。
窮地に立たされると、大多数を救うために犠牲が出るのは仕方ないと思いながら、人は罪を犯す。
人が自然を操作したり、形而上学に手を染めてはならないんだけど、潔いギンコの決断にも胸を打たれるものがありました。

硯に棲む白
化野先生の蔵に好奇心で忍び込んだ子どもたちが、きれいな硯を見つけて使ってみたところ、ひどく寒がるようになった。
化野先生といえばギンコの友人で、蟲がらみの品などを変わったものを集めるのが趣味のコレクター。
その硯を調べるために、ギンコは作り手のたがねを訪ねてみることに。
たがねの父親は硯の名工で、彼女はただ一人の後継者だった。
彼女にはかつて婚約者がいたが、その相手の家からは、彼女が硯作りを継ぐことを反対していた。
どうしても父の後を継ぎたいたがねは、父と同じくらいに素晴らしい硯をつくり、認めてもらおうとした。
そんな時、彼女はある不思議な石を掘り当て、最高傑作となる硯を作り上げた。
試しに墨を磨ってみたところ、彼女にしか見えない煙のようなものが出て、それを吸い込んでしまったらしい。
それでも彼女の体には特に変化は見られなかったので、婚約者の家で硯を持っていき、説得しようとした。
ところがひと月後、婚約者の死が伝えられた。
硯を受け取った時から寒いと言いはじめ、体温が下がり続ける奇病に冒されたらしい。
そして家族は、その硯を不吉だと思い、古物商に売り払っていたということだった。
それ以降、たがねは硯を作ることを絶っていた。
状況を全て把握したギンコは、硯の中にいるのは「雲喰み」という蟲だと察した。
入道雲のような姿をしていて、空気中の水や氷を食い、雪た霰にして降らす。(つまり排泄物??)
ところが雲がない時期が続くと小さくしぼみ、地表に降りてきて自らを凍らせて仮死とする。
そのまま時間をかけて石になったものが、硯として地表に現れ、墨を磨る時に水を与えられることで再生してきたという。
蟲の正体がわかったところで、ギンコは患者の子どもたちを高山に連れて行き、蟲を解放した。
もともと雲が浮かぶ層で生きている蟲だから、同じように高いところへ連れて行けば、吸い寄せられていくというわけ。
結局その硯は化野先生の手から離れ(=没収?)、たがねによって蟲を解放することに。
化野先生も今回ばかりは仕方がないね。
危険なものだとわかっていても、それ故の魅力に惹かれてしまうこともある。
人の趣味に口出しする気はないけど、そういう怪しげなものを扱う以上、しっかりとそれなりの覚悟をしないとね。

眇の魚
これはまた変わった趣向で、今まで語られてこなかったギンコの過去の話。
といっても、ギンコ本人ももう全く思い出せないものだと思います。
ギンコの少年時代、ヨキという名前だった。
母親と入った山で崖崩れに遭ったヨキは怪我をするが、母親は命を落としてしまう。
山の中で暮らす片目がない女に救われ、怪我の手当てをされた。
その女の名前は「ぬい」。
池に棲む蟲の影響を受け、片目を失い、紙も白くなってしまった。
ぬいは生来蟲を寄せ付ける性質があり、蟲を払いながら里を巡る蟲師として旅をしていた。
それでも里に残した夫と子に会うために、足しげく故郷へ戻っていた。
ところがある時、夫と子が山へ入ったきり、戻らなくなった。
彼女は山中を探し回ったあげく、あきらめきれず、山中にとどまっている。
ある時、ヨキは、ぬいと同じように片目になって体が白化している魚が、両目を失って姿を消すところを目撃してしまう。
その光景にぬいを重ね、いつかはぬいも同じように消えてしまうのではないかと恐れ、本当のところを問いただしてみる。
すると彼女も自分の行く末は悟っていた。
それらの現象は「銀蠱(ギンコ)」と呼んでいる蟲によるもので、
その蟲が放つ光を浴びすぎると「トコヤミ」となって姿を消してしまうという。
そして、とうとうその時がきた。
ぬいが残った片方の目も失い、トコヤミとなる。
でも彼女はきっと望んでいたのではないかと思う。
それまで蟲を寄せ付ける性質のために夫や子と一緒に暮らすことはできなかったが、
トコヤミとなって、夫や子と一緒にとどまることができると信じていたのではないかと。
その時の光を浴びて、ヨキもまた片目を失い、髪が白くなる。
そして名前すら思い出せなくなり、トコヤミにとらわれかけるのだが、必死に何か名前をつけることで逃れる。
その名前が「ギンコ」。皮肉なことに、ぬいをトコヤミに変えた存在の名前を名乗るなんて。

これが今のギンコのルーツです。
見た目も名前も、こんなエピソードからきてたんですね。
ギンコ本人は二度と思い出せないので、彼の口から語られることもないでしょうが。
でも単に外見や名前のルーツがあるだけじゃなく、蟲師としての生き方のルーツもぬいにありましたね。
・ギンコもぬいと同じように蟲を寄せ付ける性質で、ひとつ所に留まれず、蟲を払いながら旅をしている。
・蟲に対してもただ異形のモノとして排除しようとするのではなく、在り方の異なることを認め、うまく共存していく術を探している。
記憶はなくしても、ぬいから受けた影響がしっかり残っていたのですね。
後にも先にもギンコの生い立ちが描かれることはないので、貴重なエピソードでした。



蟲師 (3)  (アフタヌーンKC)

蟲師 (3) (アフタヌーンKC)

  • 作者: 漆原 友紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/12/18
  • メディア: コミック



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