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D-邪神砦

このDは、何となく雰囲気が違う!?
といっても、今までのDシリーズを読んできた人じゃないとわかりづらいと思うのですが。
かく言う私もどう表現したら伝わるのかがわかりません。
なので、思ったことを徒然に記します。

Dの行動目的といえば、犠牲者に依頼された貴族を斃すこと。
ですが今作はその対象となる貴族がいなく、Dが登場した時点で、既に用事ができていたこと。
だから人々がDに出会ったのは完全なる偶然に過ぎないのです。
そのDの用事とは、「貴族が信仰していた神を斃す」こと。
果たしてそれが誰の依頼によるものなのか、それとも何らかの自発的な行動によるものなのかは不明。
少なからず神祖が絡んでいるようだから、きっとその辺りのDにとっての大きな目的の一環なのかもしれないけど。

Dが人々に出会ったのは、都に向かう飛行車が不時着した、かつて貴族の遊戯場だったといわれる土地。
都に向かう乗客は、各々の目的を持った、職業も年齢も性別もバラバラな9人。
それぞれの人物描写や設定が緻密なところはさすが!と思う。
それもそのはず。今作はそれぞれのパーソナリティが、展開に大きく影響するから。
今までのDでは、これぞDの世界だ!と言わんばかりに情景描写が多いのですが、今回は特に人物描写、それも内面の描写が非常に多いと思ったのです。

人は自分でもどうにもできない弱みがあるとき、神に縋る。
それは貴族でも同じだったらしい。
不老不死の貴族にどんな弱みがあるのやら、と思いがちですが、それは死ねないこと
人間にはおよそ想像もつかないのですが、不老不死もなかなか辛いものがあるらしい。
確かに、生命に限りがあるからこそ人生に輝きがあるのかもしれないよね。

貴族のつくった神は人間にも作用するらしく、人の弱みにどんどんつけこんでくる。
弱い人間にとって、貴族みたいに不老不死で、恐怖で掌握することができるのは、魅力的にうつるだろうね。
こうして誘惑に負けていく人間たちの心理描写が面白く、興味深く読んでいました。

勿論9名全員が誘惑に負けたわけじゃないんです。
弱いところは当然あるけど、誘いに乗らなかった人がいる。
その一人、酒場女のマリア。
彼女は登場時から私のツボをついた女性で、芯の強い、毅然とした態度をとれるのが憧れ。
彼女の言うことや行動はいつも正しく、こんな状況でもブレない人ってすごいなー、と思った。
職業柄、それまで酸いも甘いもいろんなことがあったんだろうと思われるんだけど、どんな人生を歩めばこんなに潔くしっかりと自分を持てるのかなぁ。
こんなこと言ってる私はきっとすぐに誘惑に負けちゃうよね;

そしてもう一人、ストウ夫人。
都で暮らす子供たちを年に1回訪問するため、飛行車に乗っていた老夫婦なのですが、老人ならではの寂しさや哀愁が物凄く伝わってきまして。
手塩にかけて育てた子供たちが独立し家庭を持ったことで、老いた親の面倒を見るどころか、厄介者扱いされていると感じる気持ち、これは高齢化社会でも話題になるトピックだと思う。
恩返ししてもらいたくて育てたんじゃないってわかっていても、心のどこかでやりきれない気持ちはあるんだろうね。
旦那さんのストウさんは誘惑に負けてしまったけど、夫人は誘いに乗らなかった。
マリアやストウ夫人に共通していたのは、「誰も怨んでいなかったこと」。
誰かを怨んだり妬んだりっていうのは、人の一番弱くて醜いことなんだと、思わず自分を振り返ってしまった。

他にも気弱なトト少年が抱えたトラウマと、みんなを守ろうとした優しさや勇気、届かなかったサクリの思いなど、細かい人間模様にも感動できるところがあって、何気に深い人間ドラマが描かれたこの作品、Dシリーズの中でかなり好きです。



D-邪神砦 新版 (朝日文庫 き 18-24 ソノラマセレクション 吸血鬼ハンター 13)

D-邪神砦 新版 (朝日文庫 き 18-24 ソノラマセレクション 吸血鬼ハンター 13)

  • 作者: 菊地 秀行
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 文庫


貴族の遊戯地として恐れられている谷間に、『都』に向かう乗合の飛行車が不時着した。
やくざ、酒場女、老夫婦、戦闘士、少年、そして、謎のサクリとそれを護送する護送官ら二人。
この奇妙な取り合わせの乗客たちは、死の谷間からの脱出の成否を居合わせたDに託したいと願った。
しかし、Dがこの谷間を訪れた目的は、昔、神祖の軍と戦った貴族の砦を訪れることにある。
果たして、前途に待つものは――。
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