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バイバイ、ブラックバード

この作品は「ゆうびん小説」という珍しい方法で発表されて、
毎回抽選で選ばれた50名の読者に、
一話が書き上がり次第、
レター形式で印刷された作品が郵便で送られる、という、
聞いてるだけでもワクワクするような企画でした。
そうして発表された5話の作品と書き下ろしの1話を添えたのが、本作です。

また太宰治の未完にして絶筆となった「グッド・バイ」へのオマージュ作品でもあります。
ということで、「グッド・バイ」の基本設定である、
「何人もの女性と同時に付き合っていた男が、その関係を清算するために、
全く恋愛関係になかった女性の協力を得て、一人ひとりを訪ねて歩く」
というとことはそのまま踏襲されている、つまりはそういう話です。

今作の場合、5話=5人の女性に別れを告げていきます。
5人の女性と同時に付き合うなんて、どんなヤツなんだ!というところなのですが、
主人公の星野一彦はそういうチャラい感じでもなく、
ただ誰か一人を選ぶことができなかった、ということで、
「女の敵!」というには真逆にいる人です。
俗に言う「憎めない男」ってやつですね。
こういう人にキュンときちゃう女子は、一定数いると思う。

5人との物語に共通しているのが、出会い方が面白いこと。
「またまたぁ~」「嘘でしょ!?」って思っちゃうようなドラマチックな出会いなんですけど、
これを飄々とした星野一彦がやってるから面白いんだと思うんですよね。
決して狙ってやってるわけじゃないのですが、
この時点で、5人の女性たちはコロッと落ちてしまったんでしょうねぇ。

各話、出だしは出会いのエピソードが語られていて、
それから別れ話の場面に飛ぶのですが、
その冒頭で、女性から「あれも嘘だったのね」というようなことを言われるのが、
全5話で共通しています。

5人の女性がまたバラバラで、個性的なのがまた面白い。

1話目の女性、廣瀬あかり。
二人の出会いはいちご狩りにそれぞれ一人ずつで来ていたところなのですが、
その時、廣瀬あかりはある男性と不倫関係にあって、
それにまつわるもやもやに嫌気がさしていちご狩りを訪れた、とか。
まあ、運命のいたずらというか、他の4人に比べたら、
彼女は比較的平凡なのではないかと思われます。
それもそのはず、伊坂さんが書く連作短編では、
第1話は比較的、普通の話にすることが鉄則なんだそうです。
と同時に、星野一彦のことも紹介したい1話なのかなぁとも思いました。

星野一彦が渾身の力を見せる、「ラーメンの大食い対決」のシーンは見物です。
男女の別れのシーンで、なぜラーメン!?とまさかの展開で、
終始どうなるの!?と読み進めていくのですが、一筋縄ではいかず、
最後はホロッと感動すら生まれました。

2話目はシングルマザーの霜月りさ子。
これの出会いのシーンは、だいぶ突飛でしたね。
映画好きの伊坂さんならではのシチュエーション。
当て逃げされたり、ついてない女性ではあるのですが、
それがきっかけで爽快なエピソードになるという、
伊坂さんらしい展開だなぁと思いました。

3話目の如月ユミは、かなり強烈なキャラクター。
ロープで建物の上から侵入しようとする、
一人キャッツアイのような女性。
彼女のペースに星野も巻き込まれるのですが、
星野一彦のいいところが全くなかったお話、と言ってもいいくらい。

4話目は数字に強いこだわりを持つ神田那美子。
数字の羅列を見て、何か意味を考えてしまう人って、確かにいますね。
そんな彼女は乳がんの疑いがあって、検査の結果待ちの状況だったのですが、
ラストシーンにはほろっとしてしまいました。さすがです!

5話目は女優の有須睦子。
他の4人はわりとすんなり別れを受け入れたのに比べて、
この女性は頑なで、難航しました。
女優は意思固そうな印象ありますもんね。
ただ、これもまた「参りました!」と言わざるを得ないエピソードがありまして、
不覚にもまた泣かされてしまいました。

最後の6話目は、とうとう星野一彦が<あのバス>に連れていかれる、
という星野の日常ともお別れのシーン。
そもそも<あのバス>って何なんだ!?という話なのですが、
星野が借金をしたせいで、乗せられることになったといういきさつ以外、
どこに連れて行かれるのか、その後どうなるのか、という具体的なことは一切わからない。
星野を監視している繭美の話では、ものすごく恐ろしいところらしい、
という想像だけ掻き立てられるのですが、
このくらいの事情がないと、
星野が付き合ってきた5人の女性と別れるに至らないとも思うし、
わけのわからない恐怖が効果的だったのだと思われます。

そしてこの作品を語る上で欠かせないのが、繭美。
太宰の「グッド・バイ」でいうところの「キヌ子」的存在なのですが、
星野が<あのバス>に乗ることになってから星野を監視していて、
星野の別れ話にも協力する第三者。
見た目がものすごくインパクトがあって、身長が190センチで、体重が200キロという、
想像もつかないくらいの巨体。
職業柄なのか(?)性格もすさまじくて、
人の不幸を笑ったり、傷つけるような暴言をたくさん吐いたりします。
辞書を持ち歩いていて、例えば「常識」だとか「気遣い」といったようなワードは、
黒く塗りつぶされており、塗りつぶされている行動はしない、という、
彼女のルールブックにもなっている。
まあ、わかりやすい人ですね。

そんな繭美もちょっとずつ変化していくところもまた、
この作品の見物だと思います。
変わらないのは案外、星野一彦だけなのですが、
この二人のコンビは名コンビと言えるかも。


伊坂さんご自身は連作短編が得意じゃないとのことでしたが、
私は伊坂さんの連作短編、結構好きですよ。



バイバイ、ブラックバード<新装版> バイバイ、ブラックバード<新装版> (双葉文庫)

バイバイ、ブラックバード<新装版> バイバイ、ブラックバード<新装版> (双葉文庫)

  • 作者: 伊坂幸太郎
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2021/02/10
  • メディア: Kindle版


星野一彦の最期の願いは何者かに<あのバス>で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。
そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「恨み」「色気」「上品」——これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。
なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
<特別収録>伊坂幸太郎ロングインタビュー。
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