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D-魔性馬車

今回の舞台は乗合馬車。
Dの世界観って、中世貴族のゴシックな感じが流れているのですが、
西部劇の要素もあるのです。
街道の途中に現れる居酒屋とか、治安官(西部劇だと保安官かな?)なんて、
西部劇に登場するアイテムそのものですよね。
西部劇特有のあのクールな寂寥感も漂う。
だけどDが生きるのは、遠い未来のお話なのです。
SFと中世貴族文化と西部劇だなんて、実は物凄いコラボした世界観だったんだ!
と改めて気づかされます。

さて、今回の舞台は西部劇で言うところの「駅馬車」が舞台。
飛行体とか高度な技術も発達しているところの、
あえての「馬車」というのが、何とも趣がありますよね。

ワケありの人々が乗り合わせるのですが、全員面識はない。
そこに現れる人間模様がまた、物語に惹きこませるのです。
クールそうに見えて、実は人情モノ。それがシリーズの魅力でもあります。

乗り合わせた乗客は以下のとおり。
●クレア・シャルゼン(27歳、酒場女)
●ハーマン・ブリッグス(51歳、鍛冶屋)
●JJ(36歳、貴族ハンター)

そこにいわくつきの乗客が。
シニスター公爵の執事として寵愛されていたドルレアック。
彼に付き添う女性治安官のルイーズ・キルクと、助手のベルボとランツ。
それから新たに助手として採用したアル・ゼメキス(21歳、農夫)。

この合計8名による道中の物語です。
Dは最初からこの馬車には載っていません。
いつものように、遅れて現れます。

何と言っても気になる乗客はドルレアック。
10年以上、貴族に仕えていて、血を吸われているかどうかはまだ定かではない。
その存在に『都』の貴族研究学会が興味を持ったようで、
ルイーズたちにより、『都』まで運ばれることになった。
その扱いは檻に入れられ、まるで猛獣のようであった。

出発して直後、ルイーズからこんな宣告がある。
ルイーズたちの本来の任務は、ドルレアックの護送に他ならず、
この先、危険な土地を通過して行く上で、命の危機にさらされるような場合、
乗り合わせた客たちを守りきれるとは限らないこと。
任務であるドルレアックを守ることが優先されること。
心底納得できるとは言い難いが、さすがは辺境の人間、覚悟はできていた。

案の定、道中は平穏ではなかった。
町を出て貴族の領地へ入ってから、JJが怪しい生物を仕留める。
それは人間と蝙蝠を合体させた生物だった。
人間の知能と狡猾さ、蝙蝠の飛翔能力を組み合わせ、
しかも、貴族の吸血能力を持たせてある。
つまり、尾けられ、監視されているということだ。
恐らく、件のシニスター公爵に。

馬車はやがて、「貴族のアトリエ」と呼ばれるエリアに差し掛かった。
ここは昔々、宇宙からエイリアン・ビーイングが襲来したときに、
貴族は彫刻中の像に生命を吹き込んで、最前線の兵士として使ったらしい。
その結果、一応貴族が勝ったことになっていて、
今もこの星の生命体が生きている、ということになっているが。

Dと合流したのもこのポイント。
人影にいち早く気づいたのはJJでした。
JJといえば実は貴族ハンターで、Dと同業者!
Dのことを知らないはずがない。
ただし、JJ本人曰く現役ではなく、貴族ハンターとして致命的なキズを負っているとか。
Dに対し、静かな羨望または絶望的な悔しさが、ところどころに滲んでいます。

そういう心の弱みにつけ込む心理戦も繰り広げられる。
一例として、夢を使った攻撃があるのですが、Dの世界で夢が使われることはよくあるかも。

無事ではない道中を経て、馬車は無事に目的地にたどり着けるのか。
ドルレアックや人々はどうなるのか。
何と言っても、Dの目的は何なのか。
最後まで目が離せません。


吸血鬼ハンター 21 D-魔性馬車 (朝日文庫ソノラマセレクション)

吸血鬼ハンター 21 D-魔性馬車 (朝日文庫ソノラマセレクション)

  • 作者: 菊地 秀行
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2009/09/18
  • メディア: 文庫


あらすじを読む


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誰も教えてくれなかったこと

前作から約2年ぶりにリリースされたアルバム。
レコーディングは主にアイルランドで行われ、
ジャケットやPVも現地で撮影されました。
清々しい雰囲気がとても素敵です!


Prototype
ガンダムシリーズのテーマソングに採用されたので、知名度も高いでしょう。
タイトルは「使い捨て」という意味。
「プロトタイプ」というワード自体は、ガンダムの作品の中でよく出てくるとは思いますが。
石川さんはなぜか、「ガンダムOO」にはこの言葉しか浮かばなかったそうです。
私の知ったかぶりなガンダムのイメージといえば、
「絶えず戦っていて逃げられない。宿命とも呼べるような戦いから避けられない」
そこには「使い捨て」にされる者たちの悲しみがあって、そんな言葉たちをぶつけているのかな、と。
だからガンダムのテーマソングとして、しっくりくるんだな!と妙に納得しました。

宿命感や重苦しさが漂う中、抜群に胸打たれた箇所が。
大サビに行く前のパートで、「考えない…考えない…」ともがいている部分なのですが、
まるで台詞のように、息づかいまでもそのまま表現されている歌い方で、鳥肌が立ちました。

今回はアルバム用にリアレンジされているのですが、
イントロの繊細なピアノソロにも心打たれました。

砂の上のドルフィン
世界の本質を問うような、壮大で深い曲なのです。
この世界は選ばれた者ばかりが作った訳じゃないのですが、
どうしても、自分のいる場所に違和感を感じてしまうことがある。
私もそうやって転々としてきた人生だったかな。
今の場所はちょっと背伸びしていて、お門違いなところもあるのかもしれないけど、
自分らしく、頑張ってみたいと思います。

squall
私はもう石川さんの言葉のスコールに、打たれっぱなしなのですが。
洗練された言葉の羅列はまるでスコールのように降り注ぎ、圧倒されます。
それは普段使わない言葉のチョイスだったりするんだけど、
「こういうことを言いたかった!」という言葉ばかり。

クラウディ
曇り空のような晴れない心模様。
こういう時には落ち着いて、自分の気持ちと向き合うことが必要。
そういう内省の効果がある曲だと思います。

落涙
アニメ「戦国BASARA」の挿入歌になった、和テイストのバラード。
戦国時代に生きた侍の心意気や生き様、それらに想いを馳せる者たち。
これはしみじみと沁みる。

Shylpeed ~シルフィード~
民族音楽のような聞き慣れないエキゾチックな音色が響き、
どこか異国情緒が漂うような曲です。
それこそジャケットのような、広い草原に響き渡りそう。

49scale
激しく刻みこまれる打ち込みのリズムが際立つ。
いろんな動物が出てくる歌詞が面白いです。

First Pain
「生きること」をテーマに作られた曲。
サビの最後に「生きて」をなかば叫ぶように何度も歌う部分があるのですが、
シンプルながら強烈なインパクトがあります。
どちらかというと大人よりも子どもたちに聴かせたい歌詞だと思います。
よく夏休み明けの投稿初日に自殺する子どもたちが増えると言いますが、
そんな子どもたちに是非。

Blue Velvet
物語の鍵となるアイテムが「青い膝かけ」。
色覚と触覚の印象が強く残る。
映像が浮かんできました。

誰も教えてくれなかったこと
タイトル曲ですが、もともとは先に発売されたシングル、
「First Pain」のカップリング曲でした。
アルバムのタイトルになるくらい、キャッチ―なタイトル。
静かなオルゴールのような音色に、語り掛けるような石川さんの声がのります。

太陽
風のような石川さんが、太陽をどう表現するのか興味があったのですが、
エネルギッシュなデジタルサウンドが、太陽のエネルギーとリンクするような気がします。

1/2
タイトルは「はんぶん」と読みます。
アニメ「逮捕しちゃうぞ」のエンディングテーマに器用された曲で、
主人公2人の友情をテーマに、歌詞が制作されました。
心の奥底で信頼できるパートナーであり親友、
女だとなかなかそういう関係をつくるの難しいから憧れます。



誰も教えてくれなかったこと

誰も教えてくれなかったこと

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: JVCエンタテインメント・ネットワークス
  • 発売日: 2009/09/30
  • メディア: CD


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ETERNAL FLAME

再結成後初となるアルバムです。
タイトルの意味は「永遠の炎」。
ジャケ写では、砂漠の中の松明が燃え盛っていますが、
見事にタイトルを表現している写真かと思います。

ETERNAL FLAME
全英語詞曲。
誰もが持っている「永遠の炎」。
それは胸に抱いていている熱意などと考えてもいいのかもしれません。
壮大なテーマと、壮大なロックに、胸がアツくなります。

最後のGAME
すごく力強くてカッコイイロックです。
伴ちゃんのエネルギッシュな歌声がまたカッコイイ。

Perfect World
SF好きな方にはたまらない世界観の歌詞。
私もその一人なのですが。
この地球は、これからどうなっていくのでしょうねぇ?

名もなき革命
イントロはなく、アカペラのサビで始まるのが、
まるで皆で声高らかに叫んでいるような印象でした。
ストレートに届く歌声が、意志の強さを伺わせます。

ナイター
亡き父親に想いを馳せるこの曲は、
世のお父さんが聞いたら泣いちゃいますよね。
後にミュージックビデオが制作されたのですが、
歌詞の世界観がそのままドラマになった感じです。
お父さん役として、俳優の國村準さんが出演されています。

Feelin' The Light
こちらも全英語詞曲。
明るくポジティブな曲で、
「新しい希望」がキーワードになっています。

メラメラ
歌詞に「世田線」「三宿」「太子堂」という言葉が出てくるので、
三軒茶屋が舞台だと思われます。
そんな具体的な地名も出てくるので、歌詞がものすごくリアル。
30代くらいの独身サラリーマンが主役なのかな?
とても共感しやすいと思います。

Piece Of Your Heart
ロックなんだけど、キラキラした歌詞とのギャップが面白い。
DoAsには珍しく、カワイイ曲だな、と思いました。

北風
お伽話がそのまま曲になったような歌詞。
読み聞かせならぬ、「歌い聞かせ」ができそうです。
こういうストーリー仕立ての曲が好きな私にはツボでした。

his hometown
田舎がある人には共感できる曲ではないでしょうか。
お盆休みの時にピッタリの曲ですね。
彼の田舎を受け入れられるのは、とても素敵だなと思いました。
こうして家族が繋がっていくんだね。


タイトルの読みは「ひ」です。
漢字の表記は違いますが、
アルバムのテーマである「永遠の炎」を引き継いだ曲。
英語でも「FLAME」と「FIRE」が違うように、
日本語でも「炎」と「焔」で何となく感じが違う。
単語1つの選び方をとっても、こだわりを感じました。

生まれゆくものたちへ
重厚感あるロックバラード。
輪廻がテーマとなった、ものすごく深い曲です。
心の深いところに響く、渾身の1曲でした。



ETERNAL FLAME

ETERNAL FLAME

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: エイベックス・エンタテインメント
  • 発売日: 2009/09/30
  • メディア: CD


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ULTRA SLACKER

2作連続リリースの第一弾。
ミニアルバムかと思いきや、9曲も入ってて結構盛りだくさんです。

ゲルニカ
1曲目からパンチが効いています。
卓偉さんの抜群の歌唱力が映える、
卓偉さんらしい曲だと思いました。

虜セクシィ
ノリノリのロックに乗せて、ナンパしてきます(笑)
こういうチャラ男には引っかからないですが、
鮮やかなギターがカッコイイ!!

わかってるよ
生々しい叫びといい、ロック魂を感じました。
決して理想論ではなくリアルなんだけど、
現実を真正面から向き合わないところにリアリティが!

カフェオレ
男女のすれ違いを、「混ざり合わないカフェオレ」にたとえるなんて、
なんてオシャレなんだ!
それを冷静に、それこそカフェオレでも飲みながら心を落ち着かせようとしている、
なんてオトナなんだ~、と感心したのでした。

ムーンライト シャイニン ラブ
月夜にしっとりと聞きたい曲。
いいじゃないですか、一人で浸っても。

ひとりぼっちの愛Ⅱ
切々と歌われるファルセットの歌声から、
切実な想いが伝わってきて、胸が締め付けられます。
前後の文脈や状況的な背景はわからないけど、
真に迫った心情が響きます。

愛の意外な副作用
小難しいタイトルがついてますが、
中身は割と恋愛あるあるで、
「好きな人ができるとこうだよねー」と。
そこへ「副作用」という単語を持ってくるセンスがいいですよね。

フェイマス イン チャイナ
チャイニーズな要素が入ったロック。
音としてもなかなか面白いです。
こういう遊び心、好きですよ。

ジーナ・コリンズは交換留学生
ジーナって誰?と頭から離れない。
どうやらイギリスからの交換留学生だそうです。
日本人女子学生の中でさぞかし目を引くことでしょう。


ULTRA SLACKER

ULTRA SLACKER

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: UP-FRONT WORKS
  • 発売日: 2009/09/16
  • メディア: CD


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タグ:中島卓偉
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陽気なギャングの日常と襲撃

陽気なギャングシリーズの続編です。
前作、「陽気なギャングが地球を回す」の出来事から1年後の設定になっています。

今回の構成は第1章でギャング達の日常が語られ、
第2章から本編となる長編になります。
一見、無関係に見えそうな第1章と第2章なのですが、
実は続く第2章以降の伏線となっていて、それらのピースが全て繋がった時に、
例によって、極上の読了感を味わうことができるのです。

前作を読まなくても楽しめますが、
前作で登場したアイテムが活躍したり、前作でのイタイ経験なんかも思い出されたりして、
できれば前作も読んでおいた方が、より楽しめると思います。

まずは第1章の、それぞれの日常を語った短編からレビューします。

■成瀬
嘘を見抜く名人だが、普段は神奈川県の市役所の地域生活課で勤務する役人。
この課にはいろんな人が相談に訪れるが、
この日もまた、門馬(もんま)という定年退職後の老人が訪れていて、
4月に異動してきたばかりの大久保という部下が、対応に苦慮していた。
門馬曰く、町内を怪しい奴が歩いているから、警備をしろ、と。
そこへ、係長の成瀬がうまく応対をし、門馬を帰らせた。
成瀬の見立てによると、どうやら門馬は嘘はついてないらしい。

その午後、成瀬と大久保が一緒に外出している時に、
とあるマンションの屋上に人がいるのを見かける。
一人は門馬で、後ろに立った男から刃物を突きつけられていた。
既に向かいのマンションの住人が警察に通報していて、膠着状態となっていた。
二人が立ち去ろうとした時、門馬が何か紙を落とした。
この紙を大久保が拾うのですが、ここに書かれていることは何を意味するのか、
謎解きの要素があって楽しめます。

同時に成瀬は大久保の身の上話も聞く。
大久保には彼女がいて結婚したいと思っているが、なかなか言い出せない。
その彼女というのが、某大型ドラッグストアのチェーン店を展開する会社の社長令嬢らしい。

■響野
演説の達人は、妻の祥子と夫婦で喫茶店を営んでいる。
その日は、30代前半の会社員・藤井が、平日であるにも関わらず客として訪れていた。
平日なのに来店してい理由は、何やら頭が混乱することがあって、会社を休んだらしい。

藤井は飲むとわかりやすく記憶をなくす性質。
それについて響野がうんちくを語っているのですが、
そういえば前回も記憶に関する話をしてたなぁ。

響野曰く、記憶を失くさないためには、パエリアが効くらしい。
パエリアに使われているサフランには、クロシンという栄養素が入っていて、
そのクロシンが海馬の神経細胞に刺激を与えるとか。初耳です。

昨日、同僚の桃井と飲んでいた藤井は、翌朝やはり記憶を失くしていた。
藤井が朝起きると、「ノゾミ」という女からの書き置きが残してあった。
その「幻の女」が誰なのか、響野も「記憶の旅」に付き合うことになる。

桃井は下戸に近く酒を飲まないので、その桃井の情報によると、
飲みに行った店は<天々>と<黒磯>の2軒らしい。
<天々>は全国チェーンの居酒屋で、「チルドレン」や「魔王」でも使われていましたが、
今回の店舗は、最近できた屋根裏部屋のような形態の支店だそうなので、別店舗だと思います。
一方、<黒磯>はそこから少し離れた繁華街の、地下にあるバーで、
黒磯という名前のマスターが一人で経営している店。

まずは黒磯から辿ってみる。
マスター曰く、ずっと二人で飲んでいた、と手がかりは得られず。
ただ、このマスターは、よく融通を利かせてくれるらしい。
具体的には女を紹介してくれたり、誰かを口説く時に話しを合わせてくれたり。
自由な恋愛を楽しむというスタンスの藤井と桃井にとっては、かなり好都合かと。
果たして今回もどうかわかりませんが、黒磯というマスターはなかなか曲者で、
南米の麻薬に異様に厳しい国のことに詳しかったりする。
その国は、麻薬を少量持ってただけで、即実刑で、下手したら死刑の国。
黒磯はその国の言葉も喋れるらしい。

いろいろと辿っていく中、しまいにはその女自体が、
藤井の作話によるでっち上げじゃないか?なんて説も飛び出したり。
健忘症がひどくなると、作話という症状が出てくる。
記憶のない部分を、自分で捏造してしまう症状で、
作為的ではなく、無意識にそうやってしまう。
日頃の藤井の行いから、そう思われても仕方ないかも。

こうして、いろんな証言が得られる中、果たして真相は!?
そもそも響野にまともな推理ができるのか、そこも注目です。

■雪子
精確な体内時計を持つ彼女は3ヵ月前、事務仕事専門の契約社員として、
とある企業に派遣会社から派遣されてきていた。
ある時、鮎子という年下の女性社員から、相談を持ちかけられる。

鮎子の手にあったのは、奥谷奥也(おくやおくや)という喜劇役者の舞台のチケット。
すごく人気があって、入手困難なチケットらしい。
それがどうして鮎子の手元にあるのかというと、
密かにアルバイトしているダイニングバーでのこと。
帰ろうとしたところに、店長から「鮎子様」と書かれた封筒を渡された。
封筒はレジに置いてあったとのこと。
中身は例のチケットが1枚入っているきりだった。
鮎子には心当たりがなく、このチケットをどうすべきか?
舞台に行ってみるべきかどうか?というのが相談だった。

雪子の答えは「とりあえず行ってみる?」
恐らく左右の席のどちらかの人が犯人なのだろうと踏み、
それは行ってみないとわからない。
もっとも雪子本人が当事者ではないものの、
犯人が誰か知りたいって興味本位もあったりして。

そうして雪子に半ばそそのかされて行ってみることにしたものの、
鮎子に会社の予定が入ってしまった。
その日、イベントの司会をやることになり、開演に間に合いそうもない。
そこで雪子の出番だった。
劇場の<シアターC>まで、雪子が運転して送ることに。

当日、無事にイベントを終えたところで、雪子のセダンが迎えにきた。
助手席には祥子も座っていた。
もしも予期せぬ事態が起きた時に、手伝ってもらうためだとか。
祥子曰く、うるさい響野との生活で気分転換のために、
時々雪子に連れ出してもらっているそう。
ちなみのその響野は、例の藤井の件に付き合っているところでした。
そういえば響野のエピソードの時に、祥子が「雪子と会う予定がある」と言っていたのは、
この件だったんですね。

雪子の読み通り、開演10分前には劇場に到着した。
2時間半の舞台は予想以上に面白く、鮎子は笑い遠しだった。
内容は、奥谷奥也演じる厚化粧の詐欺師に、新手の詐欺師が次々と闘いを挑む、
というコメディ劇で、様々なバリエーションの詐欺師が登場した。
中には「柔道部詐欺」なるものもいて、柔道着を纏ったいかつい男たちが、
集団で通行人を連れ去るという、半ば誘拐のような趣向だった。

ところで、肝心のチケットを送ってくれた相手からの接触は、何もなかった。
左隣は大学生と思しき女性3人組で、無関係だろう。
そして右隣は、最後まで空席のままだった。
劇場を出るまで、誰からも声をかけられることもなかった。

鮎子から話を聞いた雪子は、あることに思いつき、劇場に入っていく。
役者に会いたいと、シアターCのオーナーと交渉する。
このオーナーが変わり者で、競馬で儲けて劇場経営をはじめたとか。
「四の五の言わずに勝負しろ」というのが口癖で、賭け事好き。
我儘を言って人に迷惑をかけるのが趣味らしい。
鮎子の会社もその影響を受けていて、劇場のホームページ制作を担当している佐藤が、
我儘なリクエストに対応を苦慮していた。
また、もともと心臓に病も抱えているらしく、それを理由に、
あちこちで倒れては救急車を呼んで、大騒ぎするらしい。

そんな情報を雪子はもちろん知らないが、交渉の手段として、賭けを提案した。
ストップウォッチを見ないでボタンを押し、相手が指定した秒数ぴったりに止められるか。
賭け事好きなオーナーが勝負事に血が騒がないはずがないが、
この勝負で雪子が負けるはずもないですよね。

さてそれから鮎子がどうなったのか。
紅一点の雪子のエピソードはちょっと甘酸っぱい要素も入ってます。

■久遠
天才スリは普段も何してるかよくわかりません。
公園で突然殴られた和田倉という会社員の男を見かけ、声をかける。
思い当たるふしは無いそうだが、借金はあるらしい。
それもかなり怖い人たちから。
そんなか弱い羊のような和田倉に興味を持った久遠。
殴った相手の財布をちゃっかり掏っていた。

財布には免許証は無く、かわりに歯医者の診察券があった。
そこから名前が「熊嶋洋一」だと判明した。
ちょうど次の日に予約が入っているようで、その歯医者で待ち伏せることに。
作戦は的中し、予定の受診日に行くと、熊嶋が現れた。

ところで、和田倉の借金とはかなりの額で、やばいところから借りている。
和田倉は合法的じゃないカジノ店の常連だった。
そこは紹介者がいないと入れない。
最初は取引先の取締役に連れていかれたのがきっかけだったが、
ギャンブル好きが災いし、まんまとハマってしまった。
カジノ店の客には、あの小劇場<シアターC>のオーナーもいた。
さすが賭け事好きなだけある。

そんな恐ろしいカジノ店、お金が返せないなんて許されるはずがない。
案の定、和田倉に電話がかかってきた。
相手は、花畑実。
職業柄に似合わずメルヘンな名前だが本名らしい。
お金を返せない和田倉に、何やら危ない仕事を頼んでいた。
そのカジノの経営者は鬼怒川と言うらしい。
あまりにもわかりやすい構図です。

物騒な人や事件に巻き込まれて、毛を刈る前の羊のように怯える和田倉。
そういえばこういうタイプの人、前作にも出てきましたよね。
雪子の元夫の地道とか、同じように犯罪の手伝いをさせられた林とか。
あと、カジノ経営者の鬼怒川は、前作でいうところの親玉である神崎とそっくり。
こういうところ、前作読んでる人には懐かしいポイントですよね。

結局、熊嶋洋一は和田倉とどういう関係で、なぜ殴ったのか?
そして、和田倉の運命はどうなるのか?
ハラハラする話なのですが、久遠のマイペースっぷりで、あまり緊迫感を感じない。


ここまでが4人各々の日常(?)だったのですが、
この後、4人揃っての長編、第2章が始まります。
個人のエピソードのどこがどう繋がって、どれが伏線だったのか、
繋げていきながら読むのがオススメです。

冒頭では華麗な強盗シーンから。
その鮮やかな手口は、前作を読んだ人にはおなじみですよね。
響野がカウンターにのぼって演説をする間、
成瀬と久遠はボストンバッグにお金を詰め込んでいく。
そして、銀行を出た4人を、雪子の運転する車で回収していく。

響野の演説のお題は「時間」。
人が動物にもどれなくなったのは、時間を気にするようになったからである。
哺乳類に限れば、一生の間の鼓動の回数が20億回と決まっている。
つまり、寿命は違っても、鼓動の回数は変わらないということは、
動物によってカウントする速度が異なるというわけ。
せかせか短く生きるのと、のんびり長く生きるのと、どちらか。
個人的には響野の演説シリーズ、大好きです。真に受けていいのかどうかはわからないけど。

そうして、手順どおりに鮮やかに強盗をした翌日、成瀬から招集がかかった。
いつもなら銀行を襲った後はすぐに集まらないことになっていて、
奪った金は成瀬が保管し、最低でも1ヵ月はお互いに顔を合わせないようにしている。

成瀬曰く「問題が起きた」とか。
それが、「筒井ドラッグ」という大手薬局チェーンの社長令嬢、筒井良子(よしこ)。
実は彼女は成瀬の部下の大久保の交際相手なのだが、その女性が襲った銀行に居合わせた、というのだ。
その彼女の後ろに、ニット帽と色付き眼鏡の、いかにも怪しい男が立っていたとか。
大久保も彼女と連絡がとれなくなったと言っているし、
もしかしたら本当に誘拐されているのかもしれない。
もし彼女が危険な目に遭っているなら、どうにか助けてやれないか、と。
この4人組は強盗だけでなく、人助けもするのです。

この話をする前に、久遠が動いていた。
怪しい男の財布を掏っていた!
そして、田中に用意してもらった発信機を財布につけて返していた。
この発信機とは、硬貨サイズの簡易シールのようなもので、
前作で現金輸送車ジャックにお金を横取りされた事件を教訓に、
ボストンバッグの底につけるようにしていた。
ところどころで前作の苦い経験が取り上げられ、そのたびに雪子がチクチクいじられるのが、
何とも微笑ましく、ぜひ前作も読んでみていただきたい所以でもある。

ともかく、この発信機のおかげで、既に追う準備ができている、ということ。
かくして4人組は、筒井良子を助けに行くことになった。

ここまでも結構なネタバレなのですが、これ以上は自粛します。
辿っていくうちに、筒井ドラッグのやり口がわかったり、例のカジノも登場します。
また今回も田中のお世話になります。
そんな中、何とも憎めない二人組が登場。
4人組は、社長令嬢を取り戻すことができるのか?
肩の力を抜いてお楽しみください。


■ボーナストラック
映画「陽気なギャングが地球を回す」の公式ガイドブックのために書かれた短編
「海には、逃がしたのと同じだけのよい魚がいる。」が文庫版のみに初収録!
響野の妻・祥子が活躍する、スピンオフ的な作品です。
舞台は響野夫妻が営む喫茶店。
そこへ訪れた磯原という若者と、別れた恋人・友里絵のストーリー。
3年前に別れた二人があって、どうなるのか?
4人組も表には出ないものの静かに暗躍します。
やっぱり人助けもするじゃないですか!



陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2009/08/30
  • メディア: 文庫


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