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D-魔道衆

前作までDシリーズを出版していた朝日ソノラマが解散して、
朝日文庫から「ソノラマセレクション」として発売された第一号です。
だからといって、シリーズの内容が大きく変わるわけではないですけども。
個人的には、私の地元の本屋さんでは、朝日文庫の棚に置かれるようになり、
ライトノベルとは一線を画すような気がしていました。

また、この作品については、携帯配信で連載されていたものが、
一冊にまとまって収録されています。
今、本のデジタル化も進んでいて、本を買う人が少なくなってしまったのかな?
とも思うのですが、それはそれでデジタル世代にも新たなファンが増えればいいかな、と。
Dは私が生まれる前から始まっていた、長~いシリーズです。
不老不死のようにいつ終わるかわからない、まだ終わってほしくないシリーズではありますが、
新しい世代も巻き込んでいけたらいいな、なんて勝手に思っています。

ちょっと前置きが長くなりましたが…
今回のD、だいぶボリューミーです。
それは、本の厚さ(=ページ数)が物語っている。
だいぶ初期の頃の作品に分厚いものがありましたが、それに匹敵するくらい。
それだけに登場人物も多く、相関図がやや複雑です。

話の本筋としては至ってシンプル。
三百年前に人間たちによって無残に虐殺された貴族が、時を経て蘇り、
その子孫たちに復讐をしようとしている。
過去にも貴族の怨念がらみのお話があったかと思いますが、
貴族は案外、根に持つタイプのようですね。
徒に長い生命を持つと、どうしてもそうなってしまうのかな。

今回、人間に復讐を果たそうとしているのは、ゼノ一族。
ゼノ公爵の倅と4人の従兄弟たちは虐殺の難を逃れ、地下墓所で眠っていた。
先祖たちにより三百年間は入り口を塞がれ、監視下にあったが、その禁が解かれ復活する…。
そんな中、ちょうどタイミング悪く、村長の娘アネットが、都から帰ってくる。
村長と娘は、三百年前にゼノ一族を虐殺したドミニク=クリシュケンの子孫だった!
そこで村長は、5人のハンターを雇うのですが、ここにDは含まれていません。

Dが物語に関わってくるのは本当に偶然。
アネットが、父が雇ったハンターのことなど何も知らず、自力で帰ってくる道中のことでした。
馬車に乗ったアネットの前に、ゼノ第一分家のヘイデン男爵が立ちはだかる。
そこへたまたま通りかかったD。
特に依頼をされていないのでこの貴族を狩る予定はなかったのですが、
貴族の方が挑発をしてきたため、始末することになる。

そのまま立ち去ろうとするDを、アネットは雇うことに。
左手とアネットの金額交渉のやり取りが面白かったです。
Dって意外と、金額はまちまちですが、いろんな人に雇われる気がする。
アネットみたいに裕福な人からはガッポリ、
そうじゃなければそれなりの金額で応じているようです。

こうしてアネットを村まで送り届ける旅が始まり、
アネットを狙う貴族は4人となりました。
ところがDの旅に「道連れ」はつきもので、今回もまた予期せぬ同行者が登場します。
宿泊した村で出会った少年ピックは、幼いながらも過酷な運命をたどってきたもので、
生き抜くための術を身に着けていました。
そんな健気な少年にDは好感を抱いたのか、どうも他の人に接する態度とは違う気がする。

のっぴきならない事情もありつつ、少年の同行をあっさり快諾。
このまま順調に進むかと思いきや、そうはいきません。
もうひとり謎の男が合流し、その結果、Dは解雇されることに。
Dはこの男の怪しさには気がついていて、
そもそもアネットの護衛にそこまでこだわりがあったわけでもなく、
もともと別の目的があったのでは?なんて思ったり。

アネットと別れてしまったD。
もちろん、こんな不消化な状態で話は終わるわけではありません。
偶然か運命のイタズラか、Dはまたアネット達の前に現れます。
しかも、当初のゼノ一族など足元にも及ばないような大貴族、ドラゴ大公も登場!
大公は神祖クラスではないかと思えるくらいの大物です。

その大公が人間を使って何の実験をしていたのか。
今までのDシリーズを読んでる方なら、何となく察しがつくかと思いますが…。
そして、それこそがDシリーズに脈々と流れる永遠のテーマなんだと思います。
大公とともに実験をしていたジュヌヴィエーヴ伯爵夫人。
彼女は人間に尊敬の念を抱いていました。

人間はどんなに憧れても不死身にはなれない。
不死身になること=それは種としても人間ではなくなってしまうこと。
人間の魂はそれを許さない。
それが人間の尊厳というものです。

それにしても、ドラゴ大公が登場してからの、ゼノ一族の雑魚っぷりが笑えました。
稀に大公みたいな神祖級の大物が出てきますが、貴族にもいろいろいるんですね。

ところで、Dの世界観は遠い未来なはずなのに、アナログというか、
中世のアンティークな世界観が共存していること。
吸血鬼といえばやっぱりクラシックな世界観がつきもので、
だからこそ未来の時代設定でも違和感なく受け入れられるんですよね。

今回もこれだけ未来で、恐ろしい実験なんかもしていて、技術的には進んでいるはずなのに、
通信や情報収集に、虫や鳥を使うという。何というアナログ!
そういえばDの中で電話って見たことないな。
そういう雰囲気が大事なんですよね。



D-魔道衆 吸血鬼ハンター19 (朝日文庫 ソノラマセレクション)

D-魔道衆 吸血鬼ハンター19 (朝日文庫 ソノラマセレクション)

  • 作者: 菊地 秀行
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2007/10/05
  • メディア: 文庫


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