SSブログ

終末のフール

単行本が出た時の広告や特設サイトを見て、
是非読みたい!と思っていた作品の、文庫化です。
文庫本派なので、やっと読めました。

あと3年で小惑星が衝突し、地球が消滅する。
そんな中、それぞれの終末の過ごし方を描いた、
オムニバス形式の作品です。

地球が消滅すると宣告されたのは5年前。
つまり、その当時は「あと8年」の余命だったのですが、
当時の混乱は激しく、奪い合いが起きたり、
自暴自棄になって人を襲う人や、自殺する人もいた。
その騒乱も5年経つと落ち着き、今に至る、
という何とも生々しい描写であり、洞察です。

「このままじゃ地球は消滅する」とは言われることがあっても、
実際にそういう宣告された経験はないのですが、
いざとなると、本当にこんなパニックになるんだろうな、
というリアリティが感じられました。

仙台北部の架空の団地「ヒルズタウン」の住民たちを描いた作品集。
よく見るとタイトルに統一性があります。
では、1編ずつレビューしていきます。


終末のフール

405号室、香取夫妻。
人を馬鹿にする夫と、どこかのんびりした妻・静江。
まるで噛み合わない二人の様子は、
私からすると、よくここまで一緒にいたな、と思ってしまう。

夫婦には息子と娘がいました。
兄の和也とは対照的に、妹の康子は図抜けて成績が良かった。
兄妹で比べられるというのは、ありがちな話ではありますが。
康子は、母や兄のことを馬鹿にする父親に辟易していた。

10年前、和也は地下鉄に飛び込んで亡くなった。
その2か月前、康子と父親は、激しい口論をしていた。
それは、父の和也に対する扱いをめぐるものだった。
口論の末、康子は「二度と戻ってこない」と言い放ち、
それっきり会ってもいない。

そんな康子が、突然戻ってくる、という。
こんな決別をした父としては、それはもう落ち着かない。
こんな性格な人だから、なおのことだと思う。

本人も言及していましたが、和也のことを認められなかったのは、
和也の中に、自分の嫌なところを見出していたから。
和也はそれなりに無理せずやり過ごすことができていたけど、
父はそれができなかった。
自分は受け入れることができず、にも関わらず受け入れている和也のことを、
許せなく思ったのではないか、と思う。
私が思うに、自分のことを子どもに投影する親はあってはならない、と思う。
親は親、子は子。血は繋がっていても、別の人間である。

康子を待つまでの間、静江はレンタルビデオでも観ようと提案する。
このご時世、生活必需品でもないれんたるビデオ店を営んでいるのは、
たいした神経だな、と思うのですが、
店長の渡部もヒルズタウンの住人でした。
501号室に住んでいて、この一家、特に親父さんがキーパーソンとなります。
この短編は、最初の作品ということもあって、
あとから読み返すと、あれもこれも伏線だったんだ!というのがわかり、
読み終わった後にもう一度戻って答え合わせすることをオススメします。

康子が何をしにきたのか、その結果どうなったのかは書きませんが、
人間は脆いな、と思いました。
どうしても人の弱いところばかりが見えてしまい、
それが自分に跳ね返ってきて、浮き彫りになるのが耐えられない。
終末を前にパニックになる人の脆さと重なって、深く考えさせられました。


太陽のシール

601号室、桜庭富士夫と美咲の若い夫妻。
優柔不断な富士夫は、この終末に、重大な決断を迫られていた。
なんと美咲の妊娠が発覚したこと。
あと3年で地球が消滅する、生まれても3年しか生きられないのがわかっている状況で、
産むべきか、産まざるべきか。

二人は結婚当初から子どもが欲しかった。
だけど、うまく行かず、7年前に検査したところ、
子どもができにくいということがわかった。
治療をするかどうするか富士夫が悩んでいるうちに、
ずるずると7年が経ってしまった。
世界が終わるとわかっている時に子どもができるなんて、皮肉なものです。

この夫婦の素敵だなと思うところはたくさんあって。
出逢い方から独特だった。
富士夫が飲み会へ行くのに、山手線のどっち回りで行くか迷っていると、
後ろにいた美咲が教えてくれた。というか、決めてくれた。
結局、富士夫はその飲み会を放棄した。
隕石が落ちてくるニュースが流れた時も、近隣の住民が次々とマンションを去っていく中、
美咲がここに残ることを決めた。見事にバランスをとっている夫婦。

富士夫がいかに優柔不断かを表現するのに、
オセロのエピソードが使われるのですが、この描写がとてもお気に入りです。
富士夫はオセロが好き。
その理由は、美咲の分析によると、他の遊びよりも選択肢が少ないから。
言われてみればオセロは手が限られていて、ルールも単純。

富士夫じゃなくても簡単に決断できる内容ではないけど、今回ばかりは待ってくれない。
なかなか決断できないまま、富士夫は、偶然高校時代の友人に声をかけられる。
彼は高校時代に、ともにサッカー部で過ごした友人。
サッカー部主将だった土屋が仙台に戻ってくるので、
土屋を交えてサッカーをしないか?と。

2日後、富士夫は河川敷のグラウンドでサッカーを楽しんだ。
大半が見知った顔だったけれど、一人だけ名前を知らない若者がいた。
それは、あのレンタルビデオ屋の店長だった。こんなところに登場するとは!

作品と作品を繋ぐ接点は、他にもあり、
それが美咲がアルバイトしているスーパーマーケットもその一つ。
町内にある佐伯米穀店が店を閉じた時に、突如として営業を再開した。
実は「終末のフール」でも静江がこのことを話題にしていた。
ここの店長は正義感が強いタイプらしく、自らのことを「キャプテン」と呼ばせていた。

話は逸れましたが、富士夫の決断に大きな影響を与えたのは、
久しぶりのサッカーで再会した土屋の話。
土屋には「リキ」という、先天性の病気を持った子どもがいる。
病気や障がいのある子を持つ親が、子どもを残して先に死んでしまう不安を語るのを聞きますが、
3年後に小惑星が衝突したら、みんな一緒に死ぬことができる。
この話はかなり印象的でした。

富士夫がどういう決断をしたのか、
最後のオチにも注目です。


籠城のビール

いきなり拳銃を向けられる物々しいシーンから始まりますが、
ここはヒルズタウンの一室。
509号室は、アナウンサーの杉田玄白とその家族が暮らす部屋だ。
このアナウンサーについても、「終末のフール」の冒頭で、
静江が姿を見かけて話題にしていました。

杉田に向かって拳銃を突きつけているのは、虎一と辰二の兄弟。
アナウンサーという仕事柄、過去のテレビ報道によって、
怨みを買ってしまったのである。

辰二たちの妹、暁子は10年前に亡くなった。
はじまりは、とある籠城事件。
犯人は30代の女性で、空き巣の常習犯だったのだが、
ある時、盗みに入った賃貸マンションで、たまたま住人と鉢合わせになった。
そして住人を拳銃で脅し、そのまま立てこもった。
その時の住人が、暁子だった。

籠城は3日間続き、唐突に姿を現した犯人の女は、
その場で自らの頭に銃弾を撃って死んだ。
3日間の一部始終を、テレビはまるでお祭りの中継のように報道した。
暁子は無事で、一件落着になるはずが、一家を新たな苦痛が襲った。

福島の自宅に戻ってきた暁子を、マスコミが追いかけてきたのだ。
辰二の想像によると、これには暁子の外見も関係していたのだろうと思われる。
当時19歳だった暁子は、兄から見ても、器量が良かった。
マスコミは執拗に、事件後の暁子の姿をとらえようとした。
そのうち根も葉もない噂が流れ出し、やがて暁子の不用心が犯罪を誘発したかのような
論調になり始めた。
その時の番組を担当したアナウンサーが杉田で、悪役のようなコメントを残していた。
一家は疲弊し、暁子はしまいには自殺してしまった。

そういうわけで、妹の復讐のために、虎一と辰二は杉田の部屋にいる。
さすがに籠城が長引いてくると、周りがざわついてきた。
突然、杉田宅の電話が鳴る。
501号室に住む、あの渡部だった。
杉田の家に不審な男が入っていくのを見かけて、心配しての電話だった。
電話をしてきたのはレンタルビデオ店で働く渡部の父で、
屋上で何か作業をしているらしい。

二度目の電話は警察から。
そうこうしているうちに、周りを警察に囲まれた。突入の準備だろう。
皆が追いつめられた瞬間、衝撃の展開が!!
何だかとっても伊坂さんらしい作品だな、と思いました。


冬眠のガール

301号室、両親を亡くした田口美智、23歳。

4年前、つまり地球消滅の発表がされた1年後、
美智の父と母は一緒に亡くなった。

5年前に世界の終わりが発表された当時、
世の中がパニック状態で、店では食料品や消耗品の奪い合いが酷かった。
その群れの中に、美智の母親もいた。
ある時、父が灯油を手に入れて帰ってきた時、
マンション前で母に襲いかかってきた暴漢を、角材で撲殺してしまったこともあった。
その後、両親が入水自殺をした。
恐らく、誰もが卑しい人間へとなっていく中で、
自分たちも同じであることへの自己嫌悪と罪悪感に苛まれていた二人は、
娘には同じ道を歩ませまいと、二人で死を選んだのだろう。

美智には、両親の死後に定めた3つの目標がある。
①お父さんとお母さんを恨まない。
②お父さんの本を全部読む。
③死なない
冒頭では、今まさに、②の目標をやり遂げたところだった。

そんな美智が唯一、外界との接触ができるのが、食材を調達しに行く時。
町が落ち着いてきて、営業を再開したスーパーマーケットへ。
店長が自らを「キャプテン」と呼び、
「太陽のシール」の美咲が働くあのスーパーマーケットだ。
そこで、美智の中学時代の同級生だった誓子と会う。
誓子は美人だが、いかにも優越感に浸りたい性格で、
美智を卑下するようなことを言って去っていた。
幸い、美智にはその意図がわからなかったのだけど、美咲にはわかっていた。

そんなエピソードが効いたのか、美智の新しい目標が決まる。
達成してしまった②の目標は、「恋人を見つける」に差し変った。

それから美智は、恋人を探しに、3人の人に会いに行く。
それは美智が読んだビジネス書にならったものだった。
「新しいことをはじめるには、3人の人に意見を聞きなさい。
まずは、尊敬している人。
次が、自分が理解できない人。
3人目は、これから新しく出会う人」
この原文があるビジネス書があったら、丸々1冊読んでみたいと思いますが。

美智にとっての1人目は、太田隆太。
高校の同級生で、同じバスケットボール部に所属していた。
2人目は、小松崎輝男。
高校生の時に、家庭教師として家に来ていた人だ。
3人目は…。

この4年間、毎日を読書に費やしていた状態を、
「疑似冬眠中」と表現しているのが印象的でしたが、
美智は、冬眠から目覚めたようです。
私もほとんど冬眠しているようなものなので、
何か目覚めるキッカケがあればなぁ、と思います。
いや、キッカケには出会ってるけど、掴んでないだけかも。

ちなみに、作中で「終末のフール」の夫婦にも遭遇。
ここでやっとこの夫妻の苗字を知ることができました。


鋼鉄のウール

キックボクシングに精を出す少年16歳。

少年がこの児島ジムに通うようになったのは、6年前のこと。
小惑星衝突の発表がされる1年前のことになる。
小学生だった少年には、1つ年上の、負かしたい相手がいた。
その上級生は板垣といい、長身で横幅もあって、
同じクラスの男子に暴力を振るっていた。
よくその現場に遭遇するたびに、不愉快な気持ちになった。
何より、怖くて何もできない自分に対しては、もっと不愉快だった。

少年は、1か月前、テレビで放送された苗場の試合が忘れられずにいた。
苗場はキックボクシングの日本王者になったこともあって、
マスコミに取り上げられていた時は、「鋼鉄の〇〇」というように、枕詞が使われていた。
確かに、苗場の身体は鋼鉄のように締まっているが、同時にしなやかさもあった。
少年は苗場の試合を見て、鮮やかな鋭い動きに圧倒されたのはもちろん、
その表情や立ち姿にも心打たれた。
そして、「苗場さんになりたい」と思った。

それから1年間、真面目にジムに通った。
練習を重ねるうちに、板垣のことなどどうでもよくなって、
ただ純粋に「強くなりたい」という気持ちだけが残った。

そんな矢先、通い始めて1年ちょっと、あの小惑星衝突のニュースが流れた。
混乱した世の中が異常事態になり、ジムへ通うどころではなくなった。
自分の部屋から出るな、と釘を刺されてしまった。
普通なら小学校を卒業し、中学生時代を過ごし、高校生になるまでの期間を、
棒に振ってしまったんだなぁ。

「世界の終末」がはじまって2年もしないうちに、
部屋に閉じこもりがちになってしまった父親。
そんな風に、あたふたと怯え切った父を見るのがつらかった。
年頃の少年にとって、これは堪えますよね。追うべき背中がいないって。
だから少年は、苗場の姿を追いかけるようになったんじゃないかな。

世界が終わる前に終末を迎えてしまったかのような家庭の様子に嫌気がさして、
市街地まで行ってみることにした。
ジムを通り過ぎようとしたところ、苗場と会長が残っていた。
ここでも、今まで通りの日常を営んでいる人がいる。

これまでの作品を通して共通として思ったのは、
大事なことは「自尊心」なのではないか、と。
世の中がパニックになった時、人々が失ったのは「自尊心」。
少年はすっかり自尊心を失った両親を見て、
自分の未来はそうならないように、自尊心を守ろうと思った。
弱い者いじめをする上級生を見て何もできない自分を許せなかったように、
こんな両親を見て何もできない自分にも許せなかったんだろう。

「おい俺、俺は、こんな俺を許すのか?」とは苗場の言葉ですが、
終末を前に「許す」というのも、キーワードなんだと思います。
「許す」という行為が、終末を前にした心の整理につながるのだろう。


天体のヨール

今にもロープで首をくくってこの世を去ろうしている中年男性・矢部。
自宅のマンションで試みたものの、失敗し尻餅をついたところだった。
再び自殺を試みようと思っていたところ、突然電話が鳴る。
相手は大学時代の同級生、二ノ宮だった。
矢部は死ぬ前に、二ノ宮に会うことにした。

二ノ宮はいわゆる「天体オタク」。
それは大学時代も、20年ぶりに再会した今も変わらなかった。
二ノ宮は20年前に、「小惑星はぶつからない」と断言した。
二ノ宮いわく、小惑星衝突などのニュースは、煽っているだけらしい。
その裏には、科学者は予算が欲しいから、と。
「危険を煽って予算をもらう。」

では、いざ実際に小惑星衝突のニュースが流れたところで、
二ノ宮の見解はどうなのか?
実のところ、半信半疑だった。
小惑星が近づいてきているのは確かだが、
二ノ宮の理屈で言うと、小惑星の動きはちょっとしたことでも変わるもので、
そもそも数年先のことなんて断言できない。

だから二ノ宮はこんな風に思っている。
今回の小惑星衝突も、故意か過失かは分からないけど、
誰かがみんなを煽ることになって、煽られた世界中がみんな真に受けて、
みんなが真に受けることになったから、小惑星が落ちることになったんじゃないか。
と案外、科学的じゃない考えだった。

「鋼鉄のウール」あたりから、方舟の話がちらほら出てきます。
方舟に乗せてほしいと懇願する人もいるかと思えば、
向こうから方舟に乗らないか?と勧誘してきたり。
当然二ノ宮は興味が無くて断るのですが、
曰く、方舟があると信じて、その人員を選抜することに躍起になって、
小惑星のことを忘れようとしているんだ、と。
確かに方舟なんて一時しのぎなもので、もしそこで助かったとしても、
何もなくなった世界で、どうやって生きていくのか?
エヴァの旧劇場版のラストシーンが思い浮かびました。

これだけでも二ノ宮の観察力と考察力の鋭さがわかるのですが、
二ノ宮が観察していたのは星だけじゃなかったのです。
その観察対象は矢部であり、後に妻となる千鶴を結び付けたのも、
二ノ宮のおかげのようなものだった。

矢部と二ノ宮の大学時代のエピソードが、生々しく描かれているのが、
まるで今の荒んだ世界との対比のようで、効果的な文章だと思いました。

今の千鶴は、5年前、あの騒動が始まった中で、巻き込まれて亡くなった。
二ノ宮には、矢部が語るより前に、千鶴がもういないことに感づき、
矢部が抱えている苦悩、自殺を試みたこともお見通しだった。

一方、二ノ宮はこんな状況でも今までと変わらず、
望遠鏡を覗いて小惑星を発見しては、スミソニアンに問い合わせしようとしている。
この状況下で、スミソニアンが正常に機能しているとも思えないけど、
やっぱり二ノ宮も、今まで通りの日常を過ごしているに過ぎない。
この二ノ宮との再会が、矢部に何を思わせたのか、気になります。

「冬眠のガール」の美智もちょこっとだけ登場します。
これまでの作品も終わりが気になるような描かれ方だったのですが、
こうして後の作品で後日談がわかるというのが、心ニクイ演出。


演劇のオール

かつて役者を志していた倫理子。
私も似たような人生だったので、共感できるところがいっぱい。

大学生時代に役者を目指して上京したものの、
才能がないとわかって仙台の戻ってきたのが7年前。
その1年後=6年前に小惑星のニュースで混乱が起きた、と書かれていることから、
この作品集の中で、時間が経っていることがわかります。
おそらく、時系列順に作品が並んでいて、
最初の「終末のフール」からは約1年が経っていることがわかります。

倫理子の両親はやはり亡くなっていた。
役者への道を断念した倫理子は、面白い生き方をしていた。
これは、私みたいな役者を志したことがある人には、よくわかる話だと思う。

倫理子はいろいろな人のところを訪問しては、様々な役を演じていた。
早乙女のおばあちゃんのところでは、孫娘として。
2歳年下の亜美ちゃんのところでは、姉として。
11歳の勇也と9歳の優希の兄妹のところでは、母親として。
マンションの同じ階に住む一郎のところでは、彼女として。

これは倫理子の憧れだったインド出身のベテラン俳優にならったものでもあった。
その俳優の言葉で、
「一人の人間は一つの人生しか体験できないのに、
役者はいくつもの人生を味わうことができる」というのがあって、これには同感。
私も役者を目指してた時は、それが醍醐味だと思っていました。
そして役者でなくなった今も、人はいろんな役割を演じているものだとは思っています。
でも私はそれでは飽き足らず、今でも、2つ以上の人生を歩んでいる。
名刺が2つも3つもある感じ。
そうしないと、自分自身が保てなくて、
それぞれの面が支え合って、私をつくりあげているんだと思います。

倫理子を共通点として、登場人物たちが繋がっていくのは、
見事だと思いました!

余談ですが、役者同士でトランプゲームの「ダウト」をやったら面白いだろうなぁ。
ババ抜きもいいけど。

ところで今回も前の作品の登場人物が出てきて後日談がわかるのですが、
「最近、矢部さんの姿を見ない」という会話があって、
ちょっと不穏な気持ちと、やっぱりそうしたのか、という気持ちと複雑になります。


深海のポール

満を持して、レンタルビデオ店員、渡部修一の話。
これまでの作品でもちょこちょこと登場しては、
父の変人ぶりを披露していた。

渡部の父が屋上で作っていたもの。それは櫓だった。
最後の瞬間、少しでも高い位置にいられるように。
映画「ディープインパクト」で、隕石が衝突する瞬間、洪水に飲まれていく場面を思い出しました。

ちらほら出ていた方舟の話は、妙な団体が、妙な集会で煽っていた様子。
理路整然と誰が選ばれるとかではなく、いざとなったらその瞬間はもっと必死だろう。
誰が助かるとか決めてあったとしても、蹴落としたり、その通りには行かない。
上述の映画もそうだし、「タイタニック」でもそうだった。
あの生々しい描写がリアル。

渡部修一には中学生時代、死を考えたことがあった。
自ら選択する死であれ、運命で決められた死であれ、
2回も死に直面し、逆説的に生を考える機会を与えられた修一。
修一の迷いは、父の全く理論的でない言葉によって、払拭されているようです。
さすが、この終末に櫓を建てるだけあって、破天荒な父だ。

それにしても、終末に、レンタルビデオの延滞料金を回収しに行くとは、
なかなか面白い発想だな、と思いました。
もしかしてそれを描きたいがために、
修一がレンタルビデオ店員を営む設定になったとか!?

他作品の登場人物たちも続々登場します。
時間経過があるので、いくらか小惑星が近づいていることにはなるのですが、
各々が最後の瞬間の迎え方を想像しているようです。

渡部修一と妻・華子には一人娘がいて、その名前が「未来」なのが素敵でした。
この先の未来に、どんなことが待ち受けているのか、
未来は長かろうと短かろうと、一生懸命生きて、終わりを迎える。
人生の質を問われているような、そんな深い作品集でした。





終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2009/06/26
  • メディア: 文庫


八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。
そう予告されてから五年が過ぎた頃。
当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。
仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。
彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。
家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。
はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?
今日を生きることの意味を知る物語。
タグ:伊坂幸太郎
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。