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HONOR 守り続けた痛みと共に

私が初めてNACSに出会った作品です。
そもそも私がNACSと出会ったキッカケは、
友人にこの作品のDVDを見せてもらってから。
その後、実際にNACSの舞台も観に行ってすっかりハマッてしまって、
自分でもDVDを買ったのです。
NACSさん、ちゃんと私は借りるだけじゃなくて、自分でも買いましたよ!!

というわけで、私にとっても大切な作品を、レビューさせていただきます。

どこかの校歌らしき合唱が聞こえたあと、舞台が暗くなり、幕がおりると…
いきなり息をのむ太鼓の演奏に圧倒される。
メンバーが見事な太鼓の演奏を披露してくれるのですが、その姿は老人。

この部分はいわゆるプロローグ。
今回はNACSメンバーの出身地・北海道の架空の村である「恵織村」が舞台です。

核となるのは、安田さん演じる五作さん。
戦争や友人の死など、悲しい過去を乗り越えて、ひとり生き長らえてきた老人の、
70年に渡る想いを伝える、郷愁人情ファンタジーです。

ところで、TEAM NACSはメンバー5人によるユニット。
客演がいないので、どんな役でも5人でやるしかありません。
今回は70年に及ぶ物語ということで、少年から老人まで、幅広い年代の役を演じ切る。
しかも、最低でも一人2役は演じるので、もはや何役やっているのか。

女優さんがいないので、たとえ女役であっても、女装して演じます。
音尾さん演じる「チエ」は、五作さんのかつての想い人で、いわゆるヒロインになるわけですが、
普通なら綺麗ドコロの女優さんが演じそうな役です。
そこを音尾さんが、おさげにもんぺ姿で演じるわけですけど、
物語に引き込まれてしまうと、全く違和感は感じない。
見た目じゃないリアルな感情の動きがそこにあったからでしょう。

他にもシゲさんと森崎さんが女装しています。
シゲさんは本当に女役ではなく、役柄上おかまになったという設定で、
本当に女装の役なのですが、これが何だかすごく綺麗!
さすがNACSのハンサム担当です。
森崎さんの女装は完全にウケ狙いで、一瞬登場するだけでしたが、ものすごいインパクトでした。

こんな風に、たとえ一瞬登場するような細かい役でも、5人の中で演じないといけないのです。
例えば五作さんが戦地のフィリピンに赴任した時の上官役を演じたシゲさん。
そのキビキビとした動きが見事で、特に匍匐前進はそれだけでも見物!
普通の劇団なら、こういう役は若手がやったりするもんですが、
ここまでの演技を見せられてしまうと、もうかなわないですよね。

それから、現地の救護兵ダバオを演じた音尾さん。
どうやら音尾さん憧れの外国人役だったようです。
そのカタコト具合が絶妙で、つい真似したくなっちゃいます。
言われてみれば確かに、外国人の方が「チョット待ッテク~ダサイ」って言ってるイメージある!
あとは、何故か語尾を奇妙なアクセントで伸ばしたり。
中でも私が一番お気に入りなのは、去り際の「ドウデスカ~?」って台詞。
本人の演技プランでは恐らく、余韻が残るように去るつもりだったのでしょうが、
何だが面白い仕上がりになってしまいました。
実は結構大事なシーンで笑っちゃいけないシーンかもしれないけど、耐えられなかった。

これだけ幅広い役を演じているので、今回もまた早替えが大変です!
画期的だと思ったのはズボン。
一瞬黒地に銀のラインが入っている模様なのかな?と思いきや、
何とその部分はファスナーだったのです。
ファスナーを使って裾の着脱(?)ができるというスグレモノ。
なので、大泉さんがあっという間に短パンになったり、シゲさんがスカートはいたりできるわけ。
この黒ズボンが、時には少年たちのズボンになったり、中学生の学ランのズボンになったり、
老人たちの法被の下のズボンになったり、何て便利なんだろう。
毎回、早替えのための衣装部さんの工夫には脱帽です。

また今回は被り物が多くて。地毛で出てくる方が少ないんじゃないか!?と思うくらい。
老人役の時には、森崎さん・大泉さん・音尾さんがハゲヅラをかぶって登場。
これはそれぞれが将来どういうハゲ方をするのかをイメージして作られたそうですが、
なんか生々しいです。
と言いながらも、リアルに毛髪について悩みだすお年頃のメンバーなので、
副音声でも毛髪ネタで盛り上がってたな。

でも、ハゲヅラはまだ序の口。衝撃のカツラはこの後も続々出てきます。
中学生になった頃。
バンドを組んではいたものの、少年たちの音楽の好みがそれぞれ違い、
それぞれが尊敬するアーティストのマネをしていたのです。
音尾さん演じるこうた君はチェッカーズ、
森崎さん演じるかどた君は南こうせつ、
シゲさん演じる花男君はXと、
それぞれの髪型を模したカツラで登場。
これはもう出オチでした。

いろんな格好のいろんなキャラクターが登場してきましたが、
何と言っても最強だったのは、安田さん演じる「ケン・タウロス」。
設定上は、大泉さん演じる秀一君が少年時代に落書きしたキャラクターが具現化したってことになってますが、
キャラが独り歩きしちゃってもう大変!
もう姿からしてエライことになってます。
上半身裸で下半身が馬(?)っていう、一歩間違えれば劇団四季にでも出てくるんじゃないか、
というようなナリなのですが、安田さんが暴走しちゃって大暴れ!

ここはケンタウロスと少年たちが絡んではしゃぐ(?)シーンなのですが、
本気で遊びまくってます。
さすが体は大人でも心は少年。楽しそうです。
ただ、ものすごい運動量なので、見た目以上に大変なんじゃないかと。
今思えば、安田さんが遊べるのは、唯一このケンタウロスだったんじゃないかと。

このシーンも実はすごく重要なシーン。
少年のこうた君が亡くなったおじいちゃんに会いに行くという冒険のシーンなのです。
死者の魂が宿るという「HONORの木」。
村の神木とも言える、大きな白樺です。
言わばこの作品のシンボル的存在なのですが、その存在感は圧巻!

この木をはじめ、舞台装置は本当に綺麗でした。
通称「たたみいわし」と呼ばれていた、まるでたたみいわしのような形状の紗幕がありまして、
これが舞台上にいろんな空間を作り上げてくれていたのです。
ある時はこの世とあの世の境界線に、ある時は卒業式の中学校の舞台の幕として、大活躍。
特にたたみいわしの向こうに、死者のシルエットが映るのは綺麗でした。

中学校の卒業式で、5人で校歌を歌うところも印象的でしたね。
ここは上述のたたみいわしの向こうに客席があって、
あえてメンバーの後ろ姿を見るという演出になっているんですけど、
卒業したら村を出ることを決めたメンバーが、背中で語る演技にしびれました。
表情が見えない分、想像しましたね。

そうして、中学卒業後、お寺を継ぐ秀一君以外は、村を出ていきました。
その後、お互いが携帯電話で連絡を取り合うシーンがあって、
それはさながら舞台上に三次元中継のような演出をされているのが、
物理的にはひとつの空間なのですが、お互いの距離感が感じられてよかったです。
なるほど~と思いました。
これ、生の舞台だとどちらかに視点を合わせなくちゃいけないけど、
DVD編集のおかげでワイプでいっぺんに見れるようになっているのがありがたいです。
よく見ると、携帯電話を持つ手だったり、マイムが細かいんですよね。
気心知れた人と話す時って、何かしながら話すじゃないですか。それがリアルなんです。

それから、村に残った秀一君から白樺の苗木が3人に届きまして。
白樺=恵織村の象徴。
3人それぞれの白樺、もといふるさとに対する向き合い方が異なっていて、
その細かい心情が伝わってきました。
だから、苗木も小さいものだったり、大きく成長していたり、折れてしまったり、
美術さんの細かい技が光ります。
三次元中継のように苗木のお世話をしていくのですが、真ん中に置かれたやかんだけが共有で、
このやかんが介在して、3人の共通点を象徴的にも結び付けてる演出が好きです。

NACSのお芝居の魅力って、ストーリーや役者の演技力はもちろんなんですけど、
そのエンターテインメント的な見せ方にもあると思うんです。

今回、その最たるものだったのが、和太鼓のパフォーマンス。
冒頭、老人役としてさわりのパフォーマンスをするのですが、
最大の山場は舞台のクライマックスにあります。
これだけでも十分、見ごたえたっぷり。
さぞかし猛練習したんだろうな、と思えます。
その努力の痕が、特典DVDで見れますよ。
この太鼓のパフォーマンスのために、なんと太鼓5台買っちゃいましたからね。
※その後、夕張でのジャンボリーで使われ、夕張の協会へ寄贈されたそうです。
でも本当、この頃のNACSメンバーは、ドラマの仕事も入り始めて忙しくなっていた頃で、
そんな中で、台詞も覚えて、太鼓も練習して…って、本当にすごいなって思います。

そして、舞台上で何と、オーロラを再現してしまったこと!
これは昔、森崎さんがウトロのお祭りで見たオーロラ投影から
インスピレーションを得られたそうですが、本当に素晴らしい!
単なるオーロラじゃないんです。それも「手作りオーロラ」。
懐中電灯の光をビニールに投影するっていうアイディアも、手作り感満載で素敵。
一生懸命さが伝わってきますよね。
これを実現させるのに、何度も実験を繰り返したんだと思いますが、
こういう作業ってワクワクするし、形になった時の感動もひとしおだと思います。

ストレートプレイなんですけど、こういう派手なエンタメ的要素を入れてくるのは、
森崎さんの演出の醍醐味で、その発想力にはいつも度胆をぬかれます。

森崎さんはいつも音楽にもこだわりを持たれているのですが、
今回はなんと校歌まで作ってしまいましたから!
作ったのは音楽担当のNAOTOさんです。
客入れ最後の曲として、幕がおりる直前まで流れているのが、恵織村中学校の校歌。
リアリティを求めて、子どもたちに歌ってもらっています。
他のBGMも、どこか田舎を意識して作られていて、それが郷愁を誘うのです。


この作品、キャッチコピーは「全ての心に、ふるさとを。」ということで、
誰もが何かしら心に引っかかるものがあるのではないでしょうか。
私は今年亡くなったばかりの祖父のことを思い出しました。
もしも「HONORの木」が本当にあったら、私は祖父と話してみたい。
五作さんの想いは、先立たれた友人の孫にしっかりと引き継がれていったけど、
私も生前、祖父が思っていたことは引き継いでいきたいし、
祖父が願ったことがかなえてあげられたらいいな、と思います。
いつか、私も祖父と同い年ぐらいまで生きれたら、自信を持って悔いなく逝かれるように。
そんな人生でありたい。


特典ディスクには、毎度おなじみのNACS CAMERAという舞台裏映像。
そして、結成10周年を迎えたNACSのトークライブイベントと出版された本に基づいて、
メンバーが10年を振り返る映像になっています。
NACSの原点と歴史がわかる、貴重な映像ですよ。




HONOR ~守り続けた痛みと共に [DVD]

HONOR ~守り続けた痛みと共に [DVD]

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD


ひとつの村にスポットを当てた70年に及ぶ物語。
語られる沢山のドラマがという小さな共同体の中で数々起こる。
舞台は北海道の忘れられた場所、人口650人の恵織村。
純粋な気持ちが溢れ、誰の心にも温かい、郷愁人情ファンタジー。
タグ:TEAMNACS
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