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チルドレン

陣内という強烈なキャラクターの持ち主を巡る物語。
短編集ではありますが、実際はその陣内を主軸に、話が繋がります。
あくまで主人公ではなく「主軸」としているのは、
陣内自身が語り手となっていないから。
各短編ごとに語り手は変わりますが、陣内の周りの者が語り手になっているのです。
だから陣内の内情を直接的に知ることはできないのだけど、
客観的に語られることによって、陣内の人物像を作り上げながら読むことができる。
そして全部が繋がった時に、これまた何とも言えない読了感を味わえるのです。

では、その短編を一編ごとに見ていきましょう。


バンク
彼らの始まりの物語。
語り手は一人称ではないですが、同級生の鴨居の視点で語られます。
20歳にもならない大学生だった頃、閉店間際の銀行に駆け込んだところ、
何と銀行強盗に遭遇してしまうのです。

その手口はというと、二人の強盗犯が入ってきて、
まず銀行内のカメラを破壊する。
そして銀行員を含む人質全員をロープで縛り、顔にはお面をつけさせた。
銀行強盗といえば、成功しやすい手口について、
陽気なギャングシリーズでたっぷりと語られていたのですが、
人質の顔にお面をつけさせるとは、これまた斬新な手口です。
強盗犯は、頬に赤いビニールテープを×印に貼っていました。
これは、「強盗が顔に何か珍しいシールを貼っていると、
人質たちはそのシールのことばかりを覚えている」という、
陽気なギャングの成瀬の理論にも一致します。
本作中でも、「関東で最近起きている四人組の強盗犯」と言及してあって、
陽気なギャングたちのニュースは、鴨居たちの地にも轟いているのですね。


それはさておき、ロープで縛られるという仕打ちに、当然ながら陣内は黙っていなかった。
彼の基本方針は「立ち向かうこと」にあるのです。
そもそも閉店間際の銀行に駆け込み、行員に断られたにも関わらず、
断固として自分の主張を譲らなかった。
その挙げ句、銀行強盗に遭遇してしまうのですが…。
その陣内の勢いも、犯人の発砲による威嚇で制圧されてしまいます。

さて、そんな陣内の反骨精神の基礎となったものに、音楽がある。
彼はアマチュアのミュージシャンでもあり、
銀行強盗に遭遇した時にもギターケースを抱えていました。
さすがに人質の分際でギターを弾かせてはもらえませんでしたが、
おもむろにビートルズの歌を口ずさんだ。
それは鴨居を含む他の人質たちの心に響き渡り、緊迫した空気を和らげた。

陣内の音楽は正真正銘のパンクロックだと言う。
パンクロックとは、立ち向かうことなんだと。
私も中島卓偉さんのパンクロックを聴いたりしますが、
言わんとしてることがわかる気がします。
内なる主張を外へ出すというか、突き破る力があると思うんですよね。

もう1つ、陣内に大きな影響を与えたもの…それは父親の存在。
陣内の父親はかなり厳格だったらしい。
職業については明かされないですが、一定の社会的地位についていたようでした。
だけど、その偉そうな人が、破廉恥だったと。
女子高生と援助交際をしていたのだ。
陣内の反発心や捻くれた言動は、そんな父親への憤りから生じているのではないか。
この考えは、一連の作品を貫くテーマとなるのです。

ところで、銀行員以外の人質には陣内と鴨居の他に、婦人と盲目の青年がいました。
名前は永瀬。
彼は、陣内や鴨居とその後も続く友情を築くことになるのです。

永瀬は目が見えない分、状況がわからない為、
鴨居をトイレに連れ出して、状況を聞き出す。
人質の人数や、お面をつけられている状況などについてを聞き、
そこから大胆な推理を繰り広げる。
強盗犯は2人組ではなく、人質となっている銀行員全員も仲間なんだと。
それを、犯人と陣内とのやり取りの中で感じたという。

永瀬は声の調子で様々な判断をする。
曰く、「音というのは川の中で魚を拾うようなものなんだ」と。
同じ体験はできないから共感はできないけど、
頭の中で川の中に手を突っ込んで魚をつかまえるところを想像して、なるほどなぁ、と思いました。

そして物語はどうなるかというと…、陣内を牽制するための銃声で、パトカーがやってくる。
これは犯人たちも予想していなかった展開。
結果的に陣内のファインプレーになるのかな?
やがて、陣内・鴨居・永瀬・主婦の4人がまず解放される。
その後、順に人質が解放されていったが、永瀬の推理が正しかったのか、真相はわからない。
この話はあくまで、銀行強盗事件の物語ではなく、そこから始まった出逢いの物語である。


チルドレン
一気に時は進み、大学を卒業して31歳の家裁調査官になった陣内。
その後輩の武藤が語り手となります。
陣内の大学生の姿から、どうしていきなり家裁調査官なのか想像つかないが、
とりあえず読み進めてみる。

武藤がスランプに陥っていた時期がある。
担当していた女子高生が保護観察中に、再び援助交際を行った。
こんな風に裏切られることは、家裁調査官にはよくあるらしい。
だから陣内は、適当にやっている。
でも不思議なことに、陣内は少年たちに慕われているのも事実だった。

武藤が家裁に来たばかりの頃。歓迎会の帰り道。
3人の少年たちが、1人の脆弱な少年を取り囲んでいた。
喧嘩の仲裁に入るかのように少年たちの輪の中に入った陣内は、
あろうことか、取り囲まれていた少年のことを殴った!
結局、倒れた少年を助けながら、少年たち4人で逃げ帰っていった。

ある日、武藤が以前担当した少年が誘拐されていたというニュースが入る。
その少年と出会ったのは半年前、マンガ本を万引きして装置されてきた。
少年の名前は木原志朗。
面接には保護者の出席が不可欠で、志朗君も「父親」と一緒に現れた。
その親子の様子を見て、陣内は芥川龍之介の「侏儒の言葉」の文庫本を渡してきた。
それは、芥川がいろいろな事柄について、彼なりの考えを書いたものだった。
いざ面接が始まってみると、なかなか本心を打ち明けてもらうことができず、
陣内に言われた通り、この文庫本を渡すことになる。
次の面接までに、気に入った文章を見つけてくるようにと。
その場で文庫本をめくった志朗君が笑い出した。
文庫本の中に「侏儒の言葉 トイレの落書き編」という小冊子が挟まっていたのだ。
その内容は、公衆トイレに書かれた悪戯書きから拾ってきた文章が並んでいた。
まさしく陣内が街のトイレから拾ってきた名言を集めて作ったものだった!
おかげで志朗君の明るい表情を見ることができ、ここでも陣内のファインプレーとなる。

翌々日、街中でばったり志朗君に会った武藤は、驚きの事実を知る。
なんと「侏儒の言葉」を面白いと思って読んでいるというのだ。
それも「トイレの落書き編」ではなく、本編の方を。
親子で笑いながら読んでいるという。何だか私も読みたくなってきました。

ところで、家裁調査官の仕事とは、ものすごく要約すれば、
恐怖心や警戒心を取り除き、少しでもいいから信頼してもらい、本心を打ち明けてもらうこと。
具体的にはそこに技法とか方法論はなく、基本的には話を聞いてあげることだが、
そういう意味では、陣内の文庫本作戦も間違いではない。
陣内曰く、「調査官は拳銃を持った牧師」だと。
ここで言う拳銃とは法律のことだが、牧師である以上、それを持ち出さず、
罪を犯した少年が本心を打ち明けてくれるのを待つのだと。
この点で、法律を振りかざす弁護士とはスタンスが全く異なる。

とある専門書によると、家裁調査官はとは、
「心理学や社会学の技法を用いて、少年犯罪の原因やメカニズムを解明し、
適切な処遇を裁判官に意見として提出する、まさに非行問題の専門家」だと書かれているらしい。
「非行問題の原因は何か」
これは恐らく、家裁調査官の永遠のテーマだろう。
武藤は家庭環境が非行の原因だとは思っているが、ここでは明確な答えを出してないように思える。

それからは、この不思議な親子について、陣内の奇妙な思い付きも織り交ぜながら、
あれこれと推理していくミステリー作品となるのである。
陣内の思い付きが当たるかどうかはともかく、陣内に振り回されながらも読み進めるのは、
なかなか愉快でした。

余談ですが、面白いのは前の短編「バンク」とのつながり。
陣内が十代の終わりに銀行強盗に遭遇したことに言及していて、
その時に歌った曲が「ヘイ・ジュード」だということがわかります。
また、武藤が陣内の父親について聞き出そうとするが、答えは変わらず。
詳しくは語らないが、最低の大人だと。
ただし時が経って、すっかり決着がついたようなのですが、
何をどうして決着をつけたのか、ここではまだわかりません。


レトリーバー
語り手は永瀬の恋人である優子。
「バンク」で名前だけは登場したものの、その場に居合わせなかった彼女。
社会人となって、学生時代の陣内との思い出を回想します。

学生時代、駅の近くで遭遇した事件。
優子と永瀬は駅前の高架歩道のベンチで座っていました。
盲導犬のベスを連れて。
実はベスは、銀行強盗現場にもいて、命令されたままおとなしく待機していたのでした。
そんなベスに、優子は嫉妬心を抱いてもいます。
で、陣内はそんな2人と1匹を待たせ、ジュースを買いに行ったまま、
なかなか戻ってこない状況でした。

その30分ほど前は、駅前でビデオカメラをいじくってはしゃぐ女子高生たちに説教していました。
この頃、大学卒業を前にした陣内は、家裁調査官を目指して受験勉強中でした。
ここでもその志望動機は明かされていないのですが、
永瀬からはきっと向いているとお墨付きをもらうのです。

その数時間前、陣内は失恋した。
駅裏のレンタルビデオ店で働く女の子に告白し、見事にフラれた。
優子たちはその現場に半ば強制的に誘われ、店の向かい側の歩道から見守ることになった。
5分くらいして、陣内が首をひねりながら戻ってきた。
日頃、店員と客として関わってはいたが、どうやらそのやり取りから大いに自信があったらしい。

やがて、ジュースを買って戻ってきた陣内は、興奮して突飛なことを言い始めました。
「失恋した自分のために、今、この場所は時間が止まっている」と。
根拠のない出鱈目な話をするのは陣内の特技ではあるが、さすがにこれは…。
陣内によると、ベンチに座り始めてから2時間、周りの顔ぶれが変わってないというのです。
難しい顔をしている男女も、鞄を抱えた男も、ヘッドフォンを耳に当てた男も、読書する女も。
極め付けは読書している女の文庫本が、2時間で数ページしか進んでないというのだ。
呆れるほどに自分中心な考え方もさることながら、この観察力は見事なものだとも思います。

そこから陣内はそれぞれの人生を勝手に妄想し、勝手にストーリーを作り上げていく。
それが当たっているのか当たっていないのかはともかく、
結局はとある事件のファインプレーとなるのです。
適当なことを言っていながらも結果オーライなのは、この頃から?

また、陣内には別の側面もありました。
待ち合わせ場所に立っていた永瀬が、見知らぬ婦人からお金をもらった。
こういう過剰な同情を受けることは、それまでも度々ありましたが、
良い気はしないものの、永瀬本人は割り切ってもいました。
ところがその光景を知った陣内は、「ずるい!」と喚き出す。
目が見えないことなんて関係なく、永瀬だけが特別扱いされるなんて納得できない!と。
こういう誰にでも「普通」に接することができるのが、家裁調査官に向いてたりして。


チルドレンⅡ
再び、家裁調査官となったあとの話に戻り、語り手も武藤になります。
「チルドレン」から1年後、陣内は32歳。
一か月前の人事異動で、武藤は陣内のいる少年事件担当を離れ、
家事事件担当になっていました。
そんな中、仕事終わりに偶然遭遇した陣内に、武藤は飲みに誘われるのです。

仕事の話になって、陣内は家事事件は気乗りしないと言う。
その道理はというと、少年事件の場合は、警察署や検察亮から少年が送致されてきて、
自分の意志で家裁に来ているわけじゃないから、どうにか助けてやりたいと思うが、
家事事件の場合は、困っている当事者が申し立ててくるので、
「わざわざ自分たちの問題を持ち込んで来やがって」と思ってしまうらしい。
挙げ句、どの調査官も「絶対に」そう思うと決めつける。

その一年前、職場の仲間たちで飲みに行った際に、隣の中年男性客たちと、
少年法について口論になったことがあった。
その時も陣内は持論を展開する。
しょせん、非行に走った奴はどうにもならない。
少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、少年法とか家事審判法の目的はどうでもよく、
「俺たちは奇跡を起こすんだ」と。
それから、「そもそも、大人が恰好良ければ、子供はぐれない」とも主張した。

そんな陣内が今や「奇跡なんて起こるわけがない」なんてこぼしているが、
自分の発言に責任を持たないのにも武藤は慣れっこだった。

ところが陣内が武藤と居酒屋「天々」にやってきたのは、愚痴をこぼすためだけじゃないらしい。
アルバイトの明君は、陣内が担当した少年だった。
偶然を装ってはいたが、明君には警戒され、それでも陣内に問われた父親の様子を答える。
「駄目親父」だと。
明君が陣内のもとに来るキッカケとなったのは、他の学校の生徒と喧嘩して退学になったこと。
喧嘩の理由はよくあるもので、隣の高校の生徒に馬鹿にされて、
このままでは「男がすたる」と向かっていったことだった。
十代の男の行動原理の大半はこんなものでしょう。
退学後はファストフード店でバイトをしていたが、客と喧嘩をし、手を出してしまった。
そこで警察が呼ばれて、家裁に来ることになったのだ。
その結果、陣内が判断した処分内容は「試験観察」。
すぐに結論を出さず、一定期間、調査を延長するものだ。
明君の家庭はばたばたしているから、こういう時は様子を見たほうがいいと、
陣内にしては珍しい判断だった。延長したって変わらないってスタンスですから…。
陣内も明君も、家を空けがちな母親は浮気をしていると確信していた。
だけど陣内は父親の方が鍵を握っていると思っている。

ここで思い切って、武藤は陣内に父親のことを聞いてみた。
ここでもまた吹っ切れたと言うので、武藤はもっと突っ込んで、吹っ切れたキッカケを聞いてみる。
20代の頃、殴ってやったんだと。それも正体がばれないように。
それからは決着がついたとのことだった。
確かにこれでは、少年たちに勧められない。

ところで家事事件担当といっても、家裁でやるのは調停で、裁判ではない。
夫婦に来てもらって話を聞き、一番いい方法を見つけるものだ。
これは私の親が二度経験しているのでよく知っています。
だけど、一番いい方法だったかは…。まぁ無難なところで手を打ったという感じですかね。
それほど人の人生に介入するというのは、難しいことなんですよ。

家事事件担当となった武藤は、ある離婚を考えた夫婦を担当することになる。
離婚の調停は、基本的には調停委員が対応します。
調停委員というのは資格が要るわけじゃなく、
「人生経験豊富で、優れた人格を備えた男女」が務めるものらしいですよ。
で、その離婚の調停では、男女の調停委員が、当事者双方の主張を聞いて、話し合いを進めます。
そこで無事に話し合いが済めば問題ないが、打開策が見つからない場合、
家裁調査官が呼ばれることになるのです。

夫の名前は大和修次、40歳の私立大学理学部教授。
妻は三代子、32歳の専業主婦。
二人の間には3歳になる娘がいます。
性格が合わず喧嘩が絶えない、というのが離婚の原因らしい。
申立人は妻のほうで、娘の親権をお互いに譲らず、こじれてしまっていました。
夫の方はすでに二度離婚をしていて、今度が三度目。
今までの二度とも、女性を作ったのが原因でした。
そして離婚した後で、その浮気相手と再婚しているので、
二回目の離婚の原因は、今の妻の三代子だったということになる。
二人の前妻の間にも一人ずつ子供がいて、それぞれ母親のところで暮らしているそうです。

武藤はまず、妻の方から話を聞くことに。
妻は夫に女がいると感づいていました。
今までの原因が全部一緒なんだから、今回もそうだろうと考えるのは妥当かと思いつつ。
こうなると妻が親権にこだわる理由は、もはや意地でした。
夫婦の揉め事を突き詰めていくと、たいていが「意地」と「我慢」にぶつかるのです。

続いて、夫の話を聞くことに。
三度も結婚していると聞くと、よほどのプレイボーイかと思われますが、
黒縁の眼鏡をかけた生真面目な印象で、知的な男性でした。
今回の離婚の原因は性格の不一致で、夫の方が切り出したという。
最初は夫が娘を引き取ることに同意をしていたが、急に譲らなくなったと。
夫の言い分としては、妻はもともと子育てが得意な方ではないし、
無職でヒステリックな妻よりは、仕事があって冷静な夫のほうが、
娘を育てるのに適しているのではないか。むしろ、それこそが正解だと思っていました。
今まで二度の離婚では、前妻二人とも仕事を持っていて、親権を渡して正解だと判断し、
すんなり協議離婚で済んだのでしょう。
また前妻との子どもたちとは、相手が再婚して新しい父親ができれば会わないのが正解だという、
至って合理的な判断をする人でした。
ただし、妻が言うような女性の存在は否定していました。

以上の結果から、武藤も親権は夫に譲った方が良いのではないかという提案をするのですが、
案の定、納得はされず、ヒステリックな反論をされるばかりでした。

この問題を、武藤は陣内に相談してみた。
例の明君がバイトする居酒屋「天々」で。
陣内はたいして相手にもせず、人間なんてそう変わるもんじゃないし、
その男はこれからも離婚と再婚を繰り返す。
だから娘の親権なんて、本人たちに決めさせればよい、と。
そして、いずれにしても、その娘はいずれぐれて、家裁にやってくる、と。

ここには陣内の持論がありました。
「子供は親を見て育つ。両親が不仲だったり、情けなかったりすると、とたんに非行に走る」と。
私が大学の心理学科を受験した時、面接がありまして、志望動機を聞かれた時に、
「少年犯罪の原因を知りたいから」なんていっちょまえなことを言った気がするんです。
結局、大学を卒業しても、その原因の糸口すら見つからなかったのですが、
陣内の言ってることはなるほど一理あるな、と思ったのです。
もう少し早く出会っていれば、私の勉学に対する熱意が変わったかもしれないのに。

ちなみに、陣内は家裁調査官になった後もバンド活動を続けていました。
武藤も知ってはいたものの、陣内の音楽を聞こうとはしてこなかったのですが、
ひょんなことからライブの誘いを受ける。
そしてそれが明君や、大和さんも誘うという強引な展開に。
でもこれが奇跡を起こすのです。

このライブで、陣内が言っていた全てのことが繋がって現実になる!
陣内の発言は単なる無責任で出鱈目なんかじゃないんだよ。


イン
またしても過去へ遡り、語り手は永瀬に。
目の見えない者の一人称で語られるので、視覚に頼らない描写が多いのが印象的です。

そこは駅前のデパートの屋上。
永瀬は優子とともに、陣内がバイトしているという屋上に来ていた。
屋上にはステージがあって、陣内が演奏するものだと思っていた。
ところが陣内は一向にステージに登場しない。
その間、優子はコーヒーを買いに行くことにした。

ひとり残された永瀬に、ブラスバンド部の演奏に来た女子が話しかける。
目が見えないとは思えない見事なやり取りをする。
その後、陣内が陣内らしからぬ気配で近づいてくる。
いや、声は陣内なんだけど、足音が普段と違う。
それもそのはず、陣内は着ぐるみのバイトをしていたのだ。
嫌気がさして永瀬のところでサボっていたら、案の定係員に見つかって怒られる。
ところが陣内は急にバイトどころではなくなり、着ぐるみをかぶってどこかへ向かう。
「殴る」とか「全部吹っ切ってやる」という言葉から察するに、これは恐らく…。

これらをあえて永瀬の感覚を使って表現した文章というのは、本当に秀逸だと思いました。



チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/05/15
  • メディア: 文庫


「俺たちは奇跡を起こすんだ」
独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。
彼を中心にして起こる不思議な事件の数々——。
何気ない日常に起こった五つの物語が、一つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。
ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。
タグ:伊坂幸太郎
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