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大奥 1

嵐の二宮君と柴咲コウさん主演で映画化された作品の原作。
私も映画を知ってから、この作品の存在を知りました。

大奥を題材にした作品は、映像作品も含めて多くありますが、
この漫画が他と大きく違うのは、男女逆転してること!
こんな大胆な設定をしているのですが、時代考証もしっかりされているので、
つじつまがあっちゃうんです。

そもそも何故、男女逆転してしまったのか。
それは、とある小さな村の一人の少年から始まりました。
少年・定吉は山に初物の大栂茸を採りに行ったところ、クマに襲われる。
虫の息で帰ってきた定吉が息を引き取った後、
定吉の二人の兄が原因不明の高熱を出し死亡。
その後、父も発病し一命を取り止めるも、
同じ頃発病した、定吉の兄の幼なじみは死亡。
定吉の母と妹は無事。

この疫病は隣の村そしてまた隣の村へと伝染し、
男だけ、それも若い男がこの病にかかると、
10人のうち8人が死んだ。
最初は気味の悪い風土病と思われていた山村の疫病は、
何年か後には関東一円からさらに西へと広まり、
恐ろしい勢いで男子の人口が減少してゆく。

この病は天然痘に似た症状のため、「赤面疱瘡」と呼ばれ、
根本的な治療法が見つからないまま80年近くが経つと、
男子の人口は女子のおよそ1/4で安定した。

そうなると、男のあまりの生存率の低さゆえに、
男の子は子種を持つ宝として大切に育てられ、
女が全ての労働力の担い手にならざるをえなくなる。
あらゆる家業が女から女へと受け継がれる事になる。

そして婚姻制度は崩壊する。
貧しい女達に夫を持つ事などは到底無理な事で、
彼女達は花街で男を買い、種を付けてもらって子供を産む。
婿を取る事は武士階級や富裕な商人、庄屋などにのみ許された特権になってゆく。

「赤面疱瘡」は架空の病気ですが、それによる社会現象まで、
ここまで緻密に設定されてることに驚きました。

その上で、三代徳川将軍の家光以降、
将軍職もまた女子の継ぐ所となる。
これで男女逆転大奥のベースができました。

さて、1巻のメインは8代将軍、徳川吉宗の物語ですが、
吉宗が即位する少し前、6代将軍。徳川家宣の時代に少し遡ります。
大奥といえば定番のお鈴廊下に仕えの者がズラッと並ぶ、「朝の総触れ」。
将軍が女なので、そこに並ぶ仕えの者は全て男。
男子の少ない世で、美男3千人を集めたと言われる女人禁制の男の城、
それがこのマンガでの大奥なのです。


一方、城下町・江戸では…
旗本の息子・水野祐之進は、道場げ剣術の稽古に精を出していた。
上述のようなご時世なので、男は働かなくても珍重されるのですが、
彼はいろんな女に子種を頼まれて一度も断ってなく、
しかも無料で種付けをしてやっているらしい。

そんな祐之進にも良い縁談がやってきた。
ところが祐之進は、その縁談を断ってしまう。
かわりに、貧しい武家に生まれながらも、一度も息子の体を金で他人に売らなかったお礼として、
大奥に入るという。
大奥奉公に上がれば手当が出るし、出世すれば表のご老中に匹敵する俸禄も夢じゃない。
食い扶持が減る上に仕送りができると納得させるはずが、既に叔父に口利きを頼んで、手筈まで整えていました。

こうして祐之進は大奥に上がることになりました。
幼馴染のお信に本心を告げられずに…。

いざ大奥に入ってみると、
「大奥美男三千人」などと言われているが、実際に仕えている男は800名にも満たない。
その800名が細かい役目に分かれて、独特の縦社会があるのです。
大きく分けて、将軍にお目通りのかなうお目見え以上と、お目通りの許されないお目見え以下に。
祐之進はお目見え以下の中でも最も地位も高く、旗本以上の息子しか付けないお役目、
「御三の間」から大奥仕えをスタートさせることになる。
そして、祐之進の呼び名は、姓だけ残して「水野」となる。
もちろん、大奥の中でこれから見聞きすることは一切他言無用です。

その男子の園では、女子と同じように新人いびりにあいました。
男子だらけでこういう環境になると、女々しくなるものなのかなぁ。
男色なんかもしごく当たり前にある。
長いこと女の相手をしないでいると、そうなるものらしい。
江戸では考えられない光景の連続に、水野は面喰っていた。

水野が大奥にあがって間もなく、幼い七代将軍・家継は病死した。
八代将軍・徳川吉宗の誕生となる。
それを機に、水野が一足飛びに御中臈にあがるよう言い渡される。
御中臈とは、将軍と御台所の身辺の世話係の事で、
この中からいわゆる将軍の「お手つき」つまり側室が出る事になる。
そうなると周りの態度がコロッと変わり、水野はうんざりする。

さて、御中臈にあがった水野に裃を仕立てることになった。
水野が選んだのは流行りの友禅染めではなく、
黒地にいぶし銀で、背中に大きくひと筋の流水紋を流すというものだった。
その裃も見事に仕立て上がり、朝の総触れで吉宗をお迎えすることになった。
吉宗は慣れないお掻取に足を取られるというハプニングに、
うっかり笑い声を立ててしまった者がいたのだが、水野が庇って名乗り出る。
その度量と器量に吉宗は目をつけ、名を訪ねた。
(それだけじゃなく、水野のシンプルな裃が他の男達と違って質素なものだと感じ、
好ましく思えたのもある)

他の大奥作品でも有名な場面ですが、将軍が総触れの際にお仕えの者の名を尋ねたら、
それはその者に夜伽を命ずるという意味である。
こうして水野は吉宗の相手をすることになるが、
ただし未婚の将軍の初めてのお相手をする男子は「ご内証の方」と呼ばれ、
お勤めを終えた後に死ななければならないと決められている。
これは、ご内証の方は将軍に初めての夜伽の手ほどきをするという重大な役目であると同時に、
将軍の体に傷をつけるという大罪人でもあり、春日局によって定められた大奥の決まり事のひとつ。
吉宗はもちろんそんなこと知らずに声をかけたのだが、
水野はその定めを知り、実家にも迷惑がかからないのであればと受け入れる。

その夜、吉宗は死にゆく水野の最期の願いを聞き入れようとする。
偶然にも吉宗の女の名が「信」で、江戸で想いを告げられずに別れた幼馴染と同じ名だった。
水野は一晩だけ、吉宗を「信」と呼ばせてもらうよう懇願する。
その時の吉宗の取り計らいが粋なもので、
寝所の周りに控えて聞き耳をたてていた仕えの者に対し、
「いまわの際の人間の頼み事ひとつ聞けなんだで何が将軍ぞ!」と言い放った!
このすがすがしいほどの潔さがたまらないです。

そして、吉宗の粋は計らいはさらに続く。
水野への仕置きが執り行われた時、水野は実際には死ななかった。
大奥にいた水野という御中臈は死んだが、
かわりにこれからは違う名を名乗り、違う人間となって、
もう一度新しい命を生き直すよう命じる。
それは、吉宗が事前にお庭番を使って、幼馴染のお信のことを調べさせていたから。
婿取りを嫌がって両親を困らせているお信の婿になってやれと提案する。
さすが暴れん坊将軍としても知られる吉宗、見事なお裁きです!
大奥というとジメジメした印象が漂うのですが、吉宗のおかげで霧をはらってくれるような清々しさです。

吉宗の潔さはこれだけではない。
財政難の折、質素倹約を旨とする吉宗は、大奥は最大の無駄遣いだと思い、
大奥に仕える者の中でも、若くて器量の良い者には宿下がりを命じた。
大奥の中で飼い殺しにするのではなく、宿下がりすればすぐに婿のもらい手が見つかると思ったから。

また、吉宗は男の数が減り、対外的にもそのことを隠していることに疑問を持つ。
そこで吉宗が訪ねていったのは、後右筆頭の村瀬のもと。
御右筆とは、表向きへの文書・書家への書状、
そして大奥で起きた全ての出来事の記録を執筆・作成する役職のこと。
そこで春日局の時代からずっと書き続けられている日記「没日録」を閲覧したいと依頼する。
次巻より、代々の将軍の時代の出来事が語られていくことになります。

私が日本史を選択しなかったのは、15代までの全ての徳川将軍の名前を覚えなきゃいけないと聞いたから。
一般の教育では、3代・5代・8代など、有名なところだけ覚えていれば良いですもんね。
だけど、代替わりには背景があるし、この作品に出会ってれば、すんなり覚えられたかもしれないですね。
そしてこの作品のスゴイところは、「組香」だとか、文化的なことも学べること。
文化史もまた、一般の教育でははしょられる部分ですからね。

男女逆転はしていますが、それ以外は普通(?)なので、
この作品を通じて、徳川マニアを目指したいと思います。



大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

  • 作者: よしなが ふみ
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2005/09/29
  • メディア: コミック



タグ:大奥
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